すい臓がんの治療の流れ|症状と診断ならびに治療を医師が解説
こんにちは。加藤隆佑と申します。がん治療の専門医として、総合病院で勤務しています。
本日は、すい臓がんの治療を専門とする原田医師に、すい臓がんの記事を監修してもらいました。
私がすい臓がんの治療方針でなやんだときに、相談にのっていただける、とても信頼のおける医師です。
この記事を通して、すい臓がんの症状と診断の仕方、そして治療についてわかるようになります。
Contents
すい臓がんの症状
すい臓は、胃の後ろの深部にあります。がんが発生しても症状が出にくく、早期の発見は非常に難しいです。
症状がでるとしたら、腹痛、食欲不振、黄疸(体が黄色くなること)、腰や背中の痛みです。糖尿病を発症することもあります。
しかし、これらの症状は、すい臓がん以外の理由でも起こることがあります。従って、そのような症状のときは、病院で検査を受ける必要があります。
さて、すい臓がんの診断がついたときに、最も大切なことは、症状をとることです。
痛みがあるときは、痛み止めを飲む事になります。一般的な痛み止めでもなかなかとれない痛みであるならば、モルヒネといった医療用麻薬を用いることに、なります。
痛みをとることを中途半端にして、治療を受けるべきでは、ありません。
痛みがある結果、食事量が減ったり、睡眠不足になって、体力が落ちる事もあります。体力が落ちると、病院での手術や抗がん剤治療に耐えられなくなる事も、珍しくありません。
症状をとること、そして、体調を整えることを、第一目標にしましょう。
その上で、病院での治療を受けましょう。すい臓がんの治療では、その部分が、重要になります。
さて、すい臓がんは、ステージによって治療方針が異なります。
そこで、次の項目では、すい臓がんのステージの決め方について説明いたします。
すい臓がんの診断と、ステージの決め方
超音波検査、CT、MRI、PETなどを行います。
これだけの検査で、大半のケースではすい膵がんという診断ならびに、すい臓がんの広がりが、分かります。
実は、典型的なすい臓がんであれば、画像診断(CT並びに超音波検査)だけで、診断ができるのです。
そして、がん細胞の顔つきを確認するために、内視鏡を用いて細胞を採取する検査を行った上で、治療に踏み切ります。
うまく細胞が採取されずに、がん細胞の存在が、証明されないこともあります。そのような場合は、画像所見で、典型的なすい臓がんの所見ならば、治療に踏み切ることになります。
さて、ステージは、CT、MRI、PETより決定します。ステージの詳細は以下の通りです。
・すい臓がんステージ1
すい臓がんの大きさが、2センチ以下
・すい臓がんステージ2
すい臓がんの大きさが、4センチ以下
・すい臓がんステージ3
すい臓がんが、腹腔動脈、上腸間膜動脈へ及ぶ。
腸や肝臓を栄養する血管に、膵臓がんが及ぶと、ステージ3になります。大きさだけでいえば、ステージ1に分類される15ミリという非常に小さながんが、腹腔動脈に及べば、ステージ3になるということです。
・膵がんステージ4
肺、肝臓、腹膜といった臓器に、転移がある。
すい臓がんのステージに応じた治療法
すい臓がんステージ1、ステージ2の治療
手術で、すい臓がんを取り除きます。
その後は、抗がん剤治療を短期間受けることにより、再発率をさらに下げます。
用いる抗がん剤として、S-1(エスワン)という飲み薬の抗がん剤になります。
ステージ1であっても、再発の危険度は、非常に高く、抗がん剤治療を何も治療を受けなければ、7割の方は、再発します。
一方で、再発を抑えるために、S-1という抗がん剤を半年飲むことが大切です。
そのような治療により、再発率を下げられます。
5年間、無再発でいられる割合を、約35%まで上げることができるのです。
そうはいっても、5年生存率が、十分に高いと言える数値ではありません。
また、手術で弱った体に追い打ちをかけるように再発するケースも、珍しくありません。そのようなときは、打つ手がありません。体が弱っていて、追加の治療を十分にできないからです。
さて、最近になり、ステージ1やステージ2のすい臓がんで、手術で切除できると予測されても、「手術前に、放射線治療と抗がん剤治療(もしくは抗がん剤治療だけ)」で、がんを縮小させてから、手術に踏み切るという流れが、台頭しています。
私も、そのような治療法を提案することが、多くなりました。
そうすることにより、「手術で弱った体に追い打ちをかけるように、再発するケース」を減らすことができるからです。
手術でとれる状態なのに、先に抗がん剤治療をして、手遅れにならないか?
ステージ1やステージ2のすい臓がんで、手術で切除できると予測されても、「手術前に、放射線治療と抗がん剤治療(もしくは抗がん剤治療だけ)」を行うことに、不安を感じる患者さんはいます。
手術でとれるものは、早く切除してほしい。。。
このような気持ちはよくわかります。
しかし、「手術前に、放射線治療と抗がん剤治療(もしくは抗がん剤治療だけ)」をした方が、すい臓がんをとりきれる可能性が、より高くなることは、判明しています。
さらに、手術後の再発率も下がるのです。
このことは、2019年1月に、Prep-02/JSAP-05 という臨床試験の結果として、アメリカの学会で発表されています。
それ以外の注意点として、すい臓の切除のために、思ったように食事が取れなくなることが、あります。
すい臓の手術は、他のがんに比べると、体に、負担がかかるのです。
そこで、食事の食べ方を工夫したり、漢方を取り入れて、栄養状態を改善していく工夫も大事になります。
手術後にリパクレオンという消化酵素を補充することも、体調維持に役立ちます。
すい臓がんステージ3の治療
腸や肝臓を栄養する血管に膵臓がんが及ぶと、ステージ3になります。
そのような血管に「少し接する」程度のすい臓がんであれば、手術で切除することはできます。しかし、手術をしても、再発率が高いです。
そこで、手術の前に、「抗がん剤+放射線治療(もしくは抗がん剤治療単独)」による治療で、がんの縮小を図った上で、手術をするのが、主流になってきています。
また、腸や肝臓を栄養する血管に、「深く食い込んでいる」場合は、手術で切除することはできません。
その場合は、「抗がん剤+放射線治療(もしくは抗がん剤単独)」による治療で、縮小を図ります。
そして、手術ができるくらい縮小した場合には、手術を検討します。
すい臓がんに対する粒子線治療の効果
粒子線治療とは、放射線治療の1つです。陽子線治療、陽子線治療はすべて、粒子線治療に分類されるものです。
これまでは、先進医療で受けられることができ、費用として300万円前後かかります。
幸いなことに、2022年4月から、保険診療で、その治療を受けることができるようになりました。
手術ができない場合であっても、粒子線治療で、がんの成長をかなり制御できることが多いです。
さて、これまでは、小腸や十二指腸と数mm程度しか距離が、離れていないときには、粒子線治療を行うことができません。
数ミリしか離れていないと、粒子線により、腸に穴があいてしまうからです。
しかし、2019年12月より、正常組織に重粒子線が当たらないようにすることが、できるようになりました。
スペーサというものを、腹部の中に埋め込む治療法が、認可されたからです。
その結果、「すい臓がんが、小腸や十二指腸と数ミリ程度しか距離がない」場合でも、重粒子線治療をできるようになります。
スペーサの埋め込みをした上での粒子線治療が、広く普及してほしいと思います。
膵臓がんステージ4(もしくは、再発)の治療
肝臓、肺、腹膜、複数のリンパ節に、がん細胞がある状態のことです。この状態は、がん細胞が、体に広く散らばっていると予想されます。
手術による治療では、がんをすべて取り除けないために、以下のような抗がん剤治療が中心となります。
・ゲムシタビン+アブラキサン
・5ーFU/ロイコボリン+イリノテカン+オキサリプラチン(略称はフォルフィリノックス)
・エスワン
抗がん剤であれば、体の血流にのって、体中にひろがったがん細胞に、がんを倒す薬の成分を、行き渡らせることができるからです。
その治療により、体に広く散らばっているがんが、制御できたと予想される場合は、根治を目指した手術が、頻度は高いことではありませんが、なされることも、あります。
すい臓がんは、完治を望める病気になりました。
膵臓がんは、以前に比べると克服できる病気になってきました。
新しい薬剤や、治療法が出ましたら引き続きご紹介していきますね。
参考文献
国立がん研究センターがん情報サービス 膵臓がん 基礎知識
https://ganjoho.jp/public/cancer/pancreas/index.html
同上 膵臓がん 治療
http://ganjoho.jp/public/cancer/pancreas/treatment.html
J-STAGE 糖尿病と癌に関する委員会報告 第2報
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/59/3/59_174/_pdf
がん研有明病院 : http://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/pancreas/index.html
国立がん研究センター東病院 膵臓の病気と治療について
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/hepatobiliary_and_pancreatic_surgery/050/3/20171102164745.html
参考:『膵臓がん 受診から診断、治療、経過観察への流れ』国立がん研究センターがん報サービス
参考:膵がん診療ガイドライン
参考:Carbon-ion radiotherapy for locoregional recurrence after primary surgery for pancreatic cancer