肺MAC症とシャワーヘッドの意外な関係

こんにちは。がん治療専門医の加藤隆佑です。

肺MAC症という感染症を持ちながら、抗がん剤治療を受ける方もいらっしゃいます。

抗がん剤治療中は、肺MAC症が悪化しないかに気をつける必要がありますが、幸いにも、私が担当させていただいた方は、悪化することはありませんでした。

ただ、中には悪化することもあり得るので、慎重に経過を見る必要はあります。

治療の際には、肺結核の治療に用いる薬剤と似たものを用います。

そして、近年、肺MAC症になる方が増えていることが問題視されています。

今日は、肺MAC症の予防策について解説します。

肺MAC症とは

近年、肺MAC症(非結核性抗酸菌症の一種)の患者さんが増えています。

MAC菌は土や水に広く存在する常在菌で、健康な方にはほとんど害を与えませんが、免疫が弱っている方や呼吸器が弱い方では、肺に慢性的な感染を起こすことがあります。

結核と名前が似ていますが、結核菌とは違い、人から人へうつることはほとんどありません。

どんな人がかかりやすい?

特に中年〜高齢の女性に多くみられます。

背が高くやせ型、またはやややせ気味の方に多い傾向があります。

もともと気管支が細めだったり、軽い気管支拡張症がある方はかかりやすいとされます。喫煙歴がない方にも多く見られます。

症状は?

長引く咳(乾いた咳、または痰がからむ咳)
だるさ
体重減少
息切れ
微熱

進行はゆっくりのことも多いですが、放置すると肺が傷み、呼吸がしづらくなることもあります。最近、増加傾向になっており、それが問題視されています。

肺MAC症はシャワーヘッドが大きな原因になっている可能性があります。

研究によると、私たちの生活環境の中に、MAC菌が長く生きられる場所がたくさんあります。

そのひとつが家庭の浴室やシャワーヘッドです。

海外の調査では、シャワーヘッドの約7割から抗酸菌が検出され、その一部がMAC菌でした。

日本の研究でも、患者さんの痰から見つかったMAC菌と同じタイプの菌が、家庭のシャワーから検出された例があります。

シャワーヘッドが菌の温床になる理由

内部に水が残ったままになりやすい

ヌメリ(バイオフィルム)ができると、消毒用の塩素が届きにくくなる

使用時に水が霧状になり、菌を含んだ微細な水滴を吸い込みやすくなる(エアゾル)

対策で増加を抑えられる可能性

すべての肺MAC症がシャワー由来とは限りませんが、家庭内での菌との接触を減らすことで、発症や再発のリスクを下げられる可能性があります。

とくに既往歴のある方や免疫が弱っている方は、シャワーヘッドの月1回の掃除と消毒が有効とされています。

例)シャワーヘッドの部分だけを取り外し、漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)の浸け置き

シャワーヘッドの部分だけを取り外せない場合は、ジップロックのような厚手タイプに漂白剤入れて、さらに根本を輪ゴムをつけて簡易浸け置き

それ以外には、

フィルターやカートリッジは定期交換。

浄水機能付きは特に、メーカー指定の周期を守る

ということも大切です。

まとめ

肺MAC症は「水や土に普通にいる菌」によって起こる病気です。

土壌のMAC菌に触れる機会は、農作業など屋外での活動が多い方では高くなりますが、そうでない方は土壌からの暴露は比較的少ないと考えられます。

一方、水回り、とくにシャワーヘッドや浴室は、多くの人が日常的に使うため、重要な暴露源のひとつと考えられています。

シャワーヘッドにより、エアゾルとなり、肺に菌が到達するからです。

完全に避けることは難しいですが、シャワーヘッドの清掃・管理は、家庭でできる予防のひとつです。
日常生活の中で、リスクを減らす工夫をしてみましょう。

(すでになっている方も、暴露を減らすことは大切なので、シャワーヘッドの消毒をして欲しいです。)

シャワーヘッドの清掃という概念は、広く普及しておりません。このことをご友人などに教えていただけますと幸いです。

この記事のURLを教えていただいても構いません。

加湿器にも要注意

肺MAC症のリスクを減らす観点から加湿器を選ぶ場合、ポイントは**「水がエアロゾル化して肺まで届く経路を減らす」ことと、「内部で菌が繁殖しにくい構造」**を選ぶことです。

1. 避けたほうがいい加湿方式

超音波式加湿器

水をそのまま微細な霧にして飛ばすため、水の中の菌やカビの胞子も一緒に吸い込むリスクが高い。
メンテナンスが不十分だと、肺MACだけでなくレジオネラ菌などの感染源にもなる。

2. 比較的安全性が高い加湿方式

スチーム式(加熱式)

水を沸騰させて蒸気にするため、菌やカビはほぼ死滅。
消費電力は高めだが衛生面では優秀。

気化式(フィルター+送風)

水を含ませたフィルターに風を当てて自然気化させる方式。
エアロゾル粒子は比較的大きく、肺まで届きにくい。
ただしフィルターのこまめな洗浄や交換が必須。

3. 選び方と使い方のポイント

・スチーム式または気化式を優先〜肺MACやレジオネラ症の既往がある方には特におすすめ。
・毎日水を入れ替える
・内部を定期的に消毒する
・酢やクエン酸での洗浄、またはメーカー推奨の洗浄方法を守る。
・タンクの水は水道水を使用
・精製水よりも塩素入りの水道水の方が菌の繁殖を抑えやすい。長期間使わない時は完全に乾燥させる

 

 

 

参考論文

Mycobacterium avium in Community and Household Water, Suburban Philadelphia, Pennsylvania, USA, 20102012

シャワーヘッド清掃の必要性

Mycobacterium avium Complex (MAC) in Water Distribution Systems and Household Plumbing in the United States