有酸素運動が抗がん剤治療やがん抑制に与える効果を示す代表的な論文や研究をまとめました。
医学的な裏付けに基づく解説です。
✅ 1. 前向きランダム化試験:運動が化学療法の治療効果に相乗的影響を与える可能性
運動はマウスモデルや一部の臨床試験において、抗がん剤やホルモン療法(例:タモキシフェン)の効果を「付加的に」「感作的に」「相乗的に」高めると報告されています。
これは代謝・免疫・腫瘍微小環境(低酸素対策など)の改善によるものとされます。
✅ 2. 大規模臨床試験:大腸がんステージ2・3の患者で運動単独の効果
17年間追跡、約900人規模のランダム化試験
3年間の運動プログラム(週に約1.5〜2.25時間の早歩きなど)を実施した群は、死亡リスクが 37%、再発リスクが 28% 減少。8年時点の生存率は運動群90% vs 対照群83%で、これは補助化学療法薬のオキサリプラチンと同等の効果と評価されました。
✅ 3. 類似研究からの補足:有酸素運動が化学療法の副作用軽減に寄与
がん患者では軽〜中強度の有酸素運動が、疲労の軽減や生活の質の向上、副作用の軽減に有効であるとする観察・介入研究が多数報告されています。
✅ 4. メカニズム:炎症抑制・免疫強化・腫瘍の低酸素改善
運動は炎症マーカーを低下させ、T細胞やナチュラルキラー細胞の活性を高め、腫瘍への血流を改善して化学療法薬の浸透を促す可能性があるとされています 。
それ以外の理由として、
強い運動をすると、血流の勢いが増して「ずり応力」という力が働き、血液中を流れているがん細胞(循環腫瘍細胞)が壊れやすくなります。
さらに、運動によって体脂肪が減ると、脂肪細胞から分泌されるレプチンという物質が減少し、がん細胞の増殖が抑えられます。一方で、アディポネクチンという物質は増え、がん細胞の自滅(アポトーシス)を促す方向に働きます。
また、運動はアドレナリンなどのカテコールアミンを増やし、脾臓から免疫細胞を呼び出す力を高めます。そのうえ、運動によって作られるIL-6という物質が免疫細胞をがん組織に集めやすくします。
さらに腸内環境にも良い影響があり、腸内細菌のバランスが変化して短鎖脂肪酸が増えると、腸のバリア機能が高まり、炎症を引き起こすNF-κBという因子の働きが抑えられます。。
このように、運動は複数の分子レベルの仕組みを通じてがんの抑制に働いていると考えられています。
🔍 解説まとめ
まとめ
運動(特に早歩きなどの中等度有酸素運動)は、抗がん剤治療の効果を高め、再発や死亡リスクを減らし、副作用を和らげる“治療補助”として信頼できるエビデンスが蓄積されています。
「当日や翌日の30分程度の早歩き」は、ご体調を見ながら実践しやすく、治療と併せて取り入れるには理にかなっていると思われます。
補足)
WHOなどのガイドラインでは、「週に150分以上の中〜高強度の運動をしましょう」とされています。
ただ「中〜高強度」と言われても分かりにくいので、わかりやすい例で表すと以下のようになります。
-
ウォーキングを週に150分(1日30分×週5日くらい) → これで「約500 MET-分」に相当します。
-
ジョギングを週に150分 → これだと「約1,000 MET-分」になります。
つまり、同じ150分の運動でも、強度が高いほど運動量(MET-分)は大きくなるということです。