完全なHER2陰性の乳がんでも、エンハーツが使えることがある?

こんにちは。がん治療専門医の加藤隆佑です。

今日は「完全なHER2陰性の乳がん」と言われた方にも、もしかしたらエンハーツという抗がん剤が使えるかもしれないというお話です。

HER2とは?

HER2(ハーツー)は、がん細胞の表面にある“タンパク質”の一種です。特に乳がんでは、このHER2の量によって治療方針が変わることがあります。

エンハーツという薬について

エンハーツは、HER2が関係しているがんに使える新しいタイプの抗がん剤です。

以前は、HER2がはっきり陽性の人にしか使えないと思われていましたが、最近は「HER2が少しでもある人」にも使えるとわかってきました。

HER2が陰性でも…実は「使える」可能性がある

驚くことに、最初に見つかった乳がん(原発巣)ではHER2が全く陰性でも、再発した場所もしくは転移した場所では、HER2が出てくることがあるのです。

実際のデータでは、

原発巣でHER2が完全に陰性だった人のうち、17.6%の人が転移・再発巣でHER2を認めた

という報告があります。

つまり、「昔、HER2陰性と言われたから、エンハーツは使えない」と思い込むのは、ちょっともったいないかもしれません。

陰性が陽性に?その逆もあります

もちろん、逆のパターンもあります

原発巣はHER2陽性でも、再発・転移のときにHER2が陰性になるケースも4.8%ほどと報告されています。

しかし、確率的には、HER2陽性だった人は、再発しても同じようにHER2が出ていることの方が多いです。

そして、原発巣のHER2陽性の程度がわずかの場合は、再発・転移のときにHER2が陰性になるケースは14.1%ほどと報告されています。

何が大事か?――「再発・転移したら、HER2の検査をもう一度」

再発したり転移したりしたときは、HER2の状態が変わっている可能性があるということです。

特に、エンハーツを使うことを考えるなら、再度のHER2検査をお願いしてみることが大切です。

さらに補足すると、以前に「HER2完全陰性」と診断された方でも、エンハーツ用の診断薬で検査し直すと「少しだけ陽性」と判断されることもあります。

まとめ:可能性をあきらめないで

がん治療は進歩しています。

「HER2陰性」と言われた方でも、今では新しい検査や薬の登場で、治療の選択肢が広がっているのです。

「前に陰性だったから」と思わずに、主治医の先生にHER2の再検査について相談してみてください。

その一歩が、あなたやご家族にとって大きな希望につながるかもしれません。