CARTでショック状態、血圧低下、倦怠感を生じないにするために
こんにちは。加藤隆佑です。
がん治療を専門に、総合病院で勤務している医師です。
今日の記事は、医師向けの内容になります。
がんによる腹水のために、腹水を抜く処置をしないといけないことがあります。
腹水をぬいて、CARTを行うことは、非常に有効な治療法になります。
しかし、腹水をぬいている最中に、強い倦怠感や、血圧低下が生じることがあります。
それは、血管内脱水の中で、腹水を抜いたためです。
したがって、血管内脱水を補正した上で、腹水を抜くことが必要です。
そのために、すべきことを記載します。
Contents
1、CART前日に、血管内脱水の有無をチェック
腹部エコーで、下大静脈が虚脱していないかをチェック。
虚脱していなければ、CARTの際の発熱予防として、プレドニゾロン30ミリグラム投与
虚脱していて、脱水があれば、細胞外液(500〜1000cc)を投与しつつ、CARTの際の発熱予防として、プレドニゾロン30ミリグラム投与
後者の場合は、一時的に腹部膨満が悪化することを覚悟して、行うことになります。
2、CART当日
細胞外液500CC +プレドニゾロン30ミリグラムを投与しつつ、腹水を抜きます。
そして、抜いた腹水をCART処理して、還元します。
15リットルといった大量の腹水を抜く場合は?
15リットル抜くことへの不安は、経験のない医師は不安に思うことが多いです。看護師も不安に思うことでしょう。
しかし、実際に経験してみると、ちゃんと安全にできます。
KM-CARTの第一人者である松崎圭祐医師は、そのことをデータでも示してくださっています。
そして、15Lのも大量の腹水の大半を抜くときのコツは、アスピレーションキットを用いて穿刺することが必要になります。
以下のようなキットは有効です。
「https://www.cardinalhealth.jp/content/dam/corp/web/documents/patient-recovery-jp/brochure/cardinal-health-jp-aspiration-kit.pdf」より画像を引用
穿刺ポイントは、へそのラインで腹直筋を外した箇所です。
そして、カテーテルをダグラス窩の方向に進めることです。
あとは、仰臥位で下肢を水平にしたまま上半身を45度程度上げた半座位の体位にすれば良いだけです。
残念ながら、一部の施設では、ベニューラ針や、CVカテーテルで腹水を抜こうとしていますが、それでは、全量抜けません。中途半端な量を抜いても、本来の治療効果を期待できません。
循環状態にもよりますが、循環状態が不安定な場合は、一気に全量を抜いてはいけません。たとえばですが、はじめに10リットルくらいの腹水を抜きます。
そして、CART処理して、還元します。その上で、残りの腹水5リットルをぬいて、再びCART処理して、還元します。
このような大量の腹水を処理する場合は、KM-CARTが必要になります。
15リットルもの多量の腹水を、通常のCARTでは処理できないからです。
以上のようにして、循環動態を安定させつつ、CARTを行うのが、大事になります。
ただし、循環状態が安定している場合は、一気に15リットル抜いても構いません。そのときの患者さんの状態を見て、腹水を抜くペースを考えましょう。
アルブミンの数値が2未満の時の注意事項
CARTを行う当日に、アルブミン製剤を投与した方が、より良いです。
CARTだけでは、アルブミンの数値を高くすることに限界があるからです。
「循環動態が不安定であり、循環動態を安定させてからCARTを行うために、CARTの直前にアルブミン製剤を投与した」と記載すれば、保険診療内でアルブミン製剤を用いることはできます。
それ以外の注意点
・高度脱水例
術前・術中の補液は多めにするとよいです。
循環状態が不安定で、できるだけ早く濃縮濾過を終わらせないといけないときには、濃縮率をさげることも考慮します。
利尿剤を内服している場合は、利尿剤を中止にしましょう。
・うっ血性心不全の場合
カテコラミンの併用、ゆっくり点滴静注、濃縮率をあげるということが必要になります。
利尿剤は継続し、術前の補液は少なめにします。
・胸水を抜く場合
腹水を全部抜いてから、胸水を抜くようにしてください。
穿刺の際には、肋間から、「少し下、ならびに背中の方向に向かって刺す」と、もっとも胸水を抜ける位置に、カテーテルを留置できます。
そして、胸水を抜き終わったら、すぐにカテーテルを抜いてはダメです。
胸部レントゲン写真で、気胸が生じていないことを確認してから、カテーテルを抜去してください。
CARTで発熱が生じる理由
発熱の原因は細菌やエンドトキシンではありません。
なぜならば、ろ過濃縮の過程で、細菌やエンドトキシンは、取り除かれるからです。
取り除かれないのは、サイトカインであり、それが発熱の原因になるとされています。
濃縮した腹水を再静注したときに、体内にこの発熱物質も入ってしまい、CART後に発熱しやすくなるのです。
したがって、発熱予防としてプレドニン(R)やソルコーテフ(R)などの副腎皮質ステロイドホルモンを静注すると、抗炎症作用による発熱を抑えることができます。
さらに、KM-CARTですと、腹水へのストレスを減らして、濃縮濾過できるので、発熱の程度をかなり減らすことができます。
発熱の予防策をしても発熱するときの対処法とは?
CARTを行う前日と当日に、プレドニゾロンを30mg投与していても高熱が出ることがあります。
その場合は、いったん、体内への還元をストップして、ソルメドロール250mg投与します。
そして、腹水を還元するスピードを50cc/hにします。
そうすれば、多くのケースで、発熱に悩まされず、還元できます。
CART翌日は採血項目チェック
翌日は、ヘモグロビン(Hb)の数値が、低下していることが多いです。
CART前の採血でのヘモグロビンは、脱水のために濃縮したヘモグロビンとなっていることがあります。
CARTをして、循環動態が安定して、脱水がなくなると、濃縮していたヘモグロビンは、濃縮していない状態、つまり薄まった状態になります。
そうなると、採血上は、ヘモグロビンの数値が下がります。
例えば、ヘモグロビンが10くらいの方が、CART後に、7.8位に低下することがあります。これは、貧血が進行したという訳でないので、誤解してないでほしいです。
脱水の状態が良くなったことを意味するので、良いことです。
アルブミンについても、同様のことがあります。CARTをしても、アルブミンが上がらないことがあります。これも、ヘモグロビンの時と同様の理由になります。
さらに、CARTをすると、下痢が出ることがあります。
これは、腹水が減り、腸の浮腫が減り、腸が動きだしたことを意味するので、良いことです。
CARTという言葉は広がっていますが、しっかりしたCART療法ができる施設は、かなり限られています。そして、多量の腹水で悩まれている患者さんの苦しみを緩和するには、KM-CARTが非常に重要な役目を果たします。