がん患者さんの「歩く速さ」が寿命に関係する?

こんにちは。がん治療専門医の加藤隆佑です。

がんになった時に、どのような運動をしたら良いですか?というご質問を受けることがあります。

ぜひしてほしいことの1つは、キビキビ歩きです。

筋力・体型よりも重要なのは“キビキビ歩き”

歩行速度は「健康のバロメーター」の1つです。

最近の研究(Zaccardiら, J Epidemiol Community Health, 2021)によると、歩行速度が速い人は長寿であることがわかっています。

特に体格指数(BMI)や握力といった“数値的な健康指標”よりも、自分で申告した歩行の速さが寿命と最も強く関連していました。

キビキビ歩く人(brisk walker)

女性86.7〜87.8歳、男性85.2〜86.8歳

ゆっくり歩く人(slow walker)でBMIが20未満の群

女性72.4歳(−15歳)、男性64.8歳(−21歳)

つまり、「体型が痩せている」よりも「歩く速さが遅い」方が、寿命に大きく影響する可能性があるのです。

がん治療中でも「歩くこと」が大切な理由

がん治療中は、どうしても体を動かす機会が減りがちです。

しかし、軽い運動の継続は、免疫機能・消化・睡眠・気分のすべてに良い影響を与えます。

特に「歩行速度」は、

筋肉量(サルコペニア)
心肺機能
神経の連携
モチベーション

これらの総合的な指標でもあります。

つまり、「キビキビ歩ける」ということは、全身がうまく連動している状態なのです。

がん患者さんにおすすめの「キビキビ歩き」習慣

1日合計20〜30分を目標に、10分×2〜3回に分けてもOK。家の周りや病院内の移動でもかまいません。

“姿勢”を意識するだけでも効果的

背筋を伸ばし、肩の力を抜いて、目線をやや遠くにすると良いです。

速さよりも「しなやかに動く」ことを大切にしつつ、体調に合わせてペース調整をしてください。

体調が良い日にはややテンポアップし、疲れている日は「軽く体をほぐす」程度でOKです。

歩く理由を持つ

近くの公園で季節を感じる、好きな音楽を聴くなど、「楽しみながら歩く」と長続きします。

「キビキビ歩き」は、がん予防にも役立ちます。

運動によるがん再発リスク低下は、多くの研究で示されています。

例えば、大腸がん・乳がん・前立腺がんの患者さんでは、週に3〜5時間のウォーキングが再発・死亡率を下げるとの報告もあります。

つまり、「キビキビ歩く」ことは、寿命を延ばすだけでなく、再発予防にも役立つ治療の一部なのです。

まとめ

歩く速さは、筋力やBMIよりも寿命と強く関係します。

がん患者さんでも「歩行」は安全で効果的な運動です。

毎日のキビキビ歩きが、体と心の回復を支えます。

歩くという行為は、体の健康だけでなく、「自分の力で前に進む感覚」を取り戻すリハビリでもあります。

焦らず、自分のペースで、日常生活に取り入れてくださいね。