がんの痛みを取るために知ってほしいこと

ー「痛みを我慢する」前に、見直してほしい4つのこと ―

こんにちは。がん治療専門医の加藤隆佑です。

がんの痛みは、体だけでなく心にも大きな負担をかけます。免疫状態も悪くしまし、体力も落ちてしまいます。

しかし、痛みをもっと軽くしていくことはできます。

痛みを軽くできれば、

夜眠れるようになる
食欲が戻る
人と話す元気が出る

など、生活の質(QOL)が大きく変わります。

一方で、本来ならば、痛みをもっと楽にできるのに、それがうまくできていないことも医療現場ではよく見かける光景です。

痛みをもっととって、ストレスのない生活をしていくために、知って欲しいことを書いていきたいと思います。

痛みを「言わないまま」我慢していませんか?

「痛み止めの薬を飲みたくない」
「痛くてもまだ我慢できる」

そう思って、痛みを我慢してしまう方がたくさんいます。

多少痛くても、日常生活が普通に送れて、食事もしっかり食べれていて、夜もしっかり眠れていれば、我慢しても大丈夫です。

ただ、痛くて気持ちが塞ぎ込んだり、日常生活の質が低下するときには、痛み止めの薬を使って痛みを取り除くことがとても大事です。

したがって、そのような痛みの時には、医師に伝えて欲しいです。我慢を続けるほど、痛みが強くなり、心も体も疲れてしまいます。「少し強くなってきたかな?」という段階で伝えてください。

医師は痛み止めの薬を処方して、痛みを和らげることができます。

どのような痛み止めの薬を用いる?

WHO(世界保健機関)では、「がん疼痛治療の3段階ラダー」という考え方があります。

痛みの強さに応じて、以下のように薬を段階的に調整していきます。

軽い痛み:アセトアミノフェン、ロキソニンに代表される非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

・中等度の痛み:モルヒネ系の軽いタイプの痛み止め(トラマドールなど) 眠気や便秘が出ることがある。

強い痛み:モルヒネ系の強いタイプの痛み止め(モルヒネ、オキシコドンなど) 適切に使えば安全。依存の心配は非常に少ない。

最近は、アセトアミノフェンを使ったら、ロキソニンに代表される非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用をスキップして、一気にモルヒネ系の薬を使うことも多くなりました。

そちらの方が臓器への負担が少ないからです。

「薬を飲んでも効かなかった」から飲むのをやめたという声も

それでも、「薬を飲んでも効かなかった」という声をよく聞きます。

その背景には、誤解・使い方の違い・相談不足が隠れていることが多いです。

「1回飲んで効かなかった」だけで諦めていませんか?

痛み止めは、1回で効かないから効かない薬とは限りません。

ある患者さんは「1回飲んでも効かなかったからやめた」と話していました。

しかし鎮痛薬は、体に効く濃度が安定するまで時間がかかるものもあります。1回では効果が感じにくくても、数回続けることで効き方が安定することがあります。

オキノームのようなモルヒネ系の痛み止めの薬を頓用(痛い時に用いる)ときは「1時間あけてもう1回」が基本

がんの痛みには、頓服薬と呼ばれる「その時だけ使う薬」もあります。

代表的なのが、オキノーム などです。

この薬は、飲んですぐに効かない場合でも、1時間あけてもう一度内服し、効果が本当に出ないか確認する必要があります。

しかし実際には、「1回飲んでも効かなかったから、もう飲まなかった」という方が多いのです。この「もう1回」が大切です。

適切な間隔で使用すれば、痛みが軽くなることは多いです。

オピオイド(モルヒネなど)を怖がらないで

「モルヒネ=末期」と思う方もいますが、それは誤解です。

今では、早い段階から使用してQOL(生活の質)を保つことが推奨されています。

正しく使えば、

依存にならない、呼吸が止まることはほとんどない、痛みが軽くなると減量も可能

です。

「痛みがなくなって初めて日常生活が戻る」——それを目指す薬です。

もし、2週間分処方されても、痛みが取れないなら我慢せず受診を

多くの方が、「たとえば2週間分の薬をもらったから2週間は様子を見よう」と考えます。

けれども、痛みが取れていない状態で我慢を続けるのは危険です。その間に、さらに体力を消耗してしまうかもしれません。

仮に2週間分の薬をもらっていても、痛みが取れない、または日ごとに強くなっている場合は、予定より早く受診してください。

薬だけでなく、「体」と「心」からのアプローチも大切

痛みは体の問題だけでなく、心の緊張や不安によっても強く感じます。例えば次のような方法を併用すると、鎮痛効果が高まります:

体を温める(体を冷やさない)
信頼できる人との会話

これらを取り入れることで、「痛みの感じ方」そのものがやわらぎます。

痛みを取ることも「治療の一部」

痛みを取ることは、「治療を続けるためのサポート」です。

痛みが取れることで、呼吸・睡眠・食欲が整い、体が回復しやすくなります。

まとめ

がんの痛み止めは、「合う薬に出会うまで調整するもの」です。

「効かない」と感じたら、

使い方を見直す、医師に率直に伝える、予定より早めに受診する¥

この3つを忘れないでください。

がんの痛みは、必ず軽くできます。痛みを我慢せず、1日も早く「痛みのない日常」を取り戻しましょう。