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肝臓に癌が多くあることによる症状を和らげる全肝照射について医師が解説

 2024/10/19 放射線治療 肺がん  

こんにちは。がん治療専門医の加藤隆佑です。

最近になり、肝臓全体に放射線を当てるという全肝照射という治療法が再注目されてきました。

肝臓全体に放射線を当てても大丈夫と思われるかもしれません。

そこで、肝臓に対する放射線治療の歴史を簡単にご説明します。

1、20年前とは、治療による副作用や効果が大きく異なる。

以前も、全肝照射はされていたという歴史はあります。

しかし、20年以上前は、コバルトと呼ばれる機械が使わ れていた頃には、機械の性能不足から、がんに当たる放射線よりも、周辺の正常組織に当たる放射線の量の 方が多くなってしまうことも珍しくありませんでした。

そうなってしまうと、副作用がたくさん出る上に治療効果はほとんどでません。

効果が乏しく、安全性も乏しいということで、その治療はすたれました。

最近になり、放射線治療の 機械が進歩した結果、効果が高く副作用の少ない放射線治療ができるようになりました。

その結果、体の負担が非常に少なく、体力が弱っている方でも、安全に受けられるようになったのです。

2、全肝照射とは?

肝臓全体に照射をしますが、照射回数は1回だけです。外来でも施行可能です。

肝臓にがんがあることによって生じる症状を緩和することに行います。

肝臓にあるがんを完全に死滅させることを目的にした治療ではありません。

ただ、症状の緩和をすることで、元気に毎日を過ごせる期間を伸ばしてくれる可能性がある治療法です。

以下の論文では、

多発肝転移、または多発肝臓がんによる症状がある場合、64%の方が症状が緩和していました。

2から4週間くらいかけて、肝機能に関連する数値が改善しました。

この治療により、痛みのみではなく、他の症状の改善も期待できます。

肝臓全体にがんがあって、なんの治療法がない状態でも、全肝照射は検討することができる安全性の高い治療法です。

年齢や肝機能に関係なくできる治療法です。

副作用で一番注意しないといけない症状は、吐き気・嘔吐です。

その対策として、グラニセトロンやステロイドを用いることが推奨されています。

私の病院では、グラニセトロンだけでは吐き気・嘔吐の制御が十分でないので、グラニセトロンとステロイド(3日間)の両方を併用することが多いです。

肝臓に癌がたくさんあることによる症状で悩まされた場合には、検討してもらって欲しい治療法の1つですが、まだ広くは普及はしていません。

ただ、治療方法は簡単で、放射線治療の機械があれば、どこの施設でもできます。

1日も早く、この治療法が普及することを願っています。

 

 

 

参考資料はこちら

執筆医師:加藤隆佑


癌治療認定医
内科学会認定医
消化器病学会専門医・指導医
消化器内視鏡学会専門医
肝臓専門医・指導医
札幌禎心会病院がん化学療法センター長

(2021年9月までは、小樽協会病院消化器内科に所属)

消化器領域のがん(食道、胃、すい臓、肝臓、胆のう、大腸)を専門としつつ、がん全般についてアドバイスをしています。

緑書房より「抗がん剤治療を受けるときに読む本」「大腸がんと告知されたときに読む本」「がんと向き合うために大切なこと」を出版。

加藤隆佑医師の論文

加藤隆佑医師のプロフィールの詳細はこちら

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