前立腺がんステージ4でも楽に余命をのばす!今すぐ効果がある治療を医師が解説
こんにちは。がん治療を専門にしている医師である加藤隆佑です。
前立腺がんのステージ4と言われて、長くは生きられないと、途方にくれているかもしれません。しかし、そうではありません。
ホルモン療法により、がんは、かなり制御することができます。
仮に、ホルモン療法が効かなくなっても、それ以外の治療法は、あります。
ホルモン療法抵抗生の前立腺がんは、油断ができない状況であることは事実ですが、劇的に良くなる方が、います。
抗がん剤治療ができないような、末期の状態であっても、よりよい状態にもっていくことは、できます。
余命宣告をされていたとしても、余命をさらに伸ばしていきましょう。
Contents
ステージ4の前立腺がんの症状
前立腺がんは、初期の段階では、症状はほとんどありません。
症状がでたときには、ステージ4の状態に進行しているというケースも多いがんとなります。
前立腺がんが尿の通り道を圧迫し、排尿時に痛みを感じたり、頻尿や残尿感を感じるようになります。血液が混じるようになることもあります。
ステージ4の前立腺がんですと、高い確率で、骨に転移をします。特に腰椎や骨盤に転移しやすく、骨転移によって強い腰の痛みや、下半身の麻痺が生じることもあります。
前立腺がん末期には、リンパ節や肝臓、肺、脳などへの転移を起こすこともあり、転移したそれぞれの臓器に特徴的な症状を引き起こします。
前立腺がんの診断
前立腺がんの診断のために、以下の検査をします。
・肛門に指をいれて、直腸から前立腺を触知します。
・直腸にプローブを挿入して行う超音波検査
・血液中の前立腺がんの腫瘍マーカー
PSAという腫瘍マーカーをチェックします。
・がんの広がりを確認するために、CTやMRI
・骨転移の有無や、骨転移した部位を調べるための、骨シンチグラフィ―
最終的な診断のために前立腺からがん細胞をとるために、生検をします。
前立腺生検では、超音波で前立腺の状態をみながら、細い針で前立腺を刺して組織を採取します。初回の生検では10から12カ所の組織をとります。
前立腺生検の合併症で頻度の高いものは血尿、血便、精液に血が混じるという症状ですが、大半は一時的なものです。
ステージ4の前立腺がんは、末期なのか?
前立腺がんは、他のがんと比べて予後が良好ながんす。
前立腺がんは全てのがんの中で最も生存率が高く、ステージⅣにおける5年生存率は30%を超えています。
前立腺がんは進行が遅く、末期の状態までがんが進行していても、治療に、かなり余命を長くすることができます。
ステージ4の前立腺がん治療
(https://ganjoho.jp/public/cancer/prostate/print.htmlの画像を一部改変)
ステージ4の前立腺がんの治療では、外科的な切除は、なされません。
がんが広く散らばっている状態だからです。
そのような場合には、ホルモン療法が効果を発揮します。
ステージ4の前立腺がんにおけるホルモン療法とは?
前立腺がんは、男性ホルモンの刺激で病気が進行する性質があります。
内分泌療法は、男性ホルモンの分泌や働きを妨げる薬によって前立腺がんの勢いを抑える治療です。
内分泌療法は手術や放射線治療を行うことが難しい場合や、放射線治療の前あるいは後、がんがほかの臓器に転移した場合などに行われます。
男性ホルモンは主に精巣から分泌されると同時に、一部は副腎からも分泌されます。
そこで、それら両方をブロックする薬剤を併用することになります。
精巣からの男性ホルモンをブ ロックする薬と、副腎からの男性ホルモンをブロックする薬があります。そ れぞれ単独で使われることもありますが、両者を併用して治療するのが一般的です。
ホルモン療法は一生続けないといけない?
PSA 値が一定の値まで低下したら、いっ たん完全にホルモン療法をお休みすることがあります。
そして、PSA 値がある値を超えたら再開するという方法もあります。そうすることにより、より長い間、ホルモン療法を使えるようになることがあるからです。
間欠療法と言います。
・精巣からのホルモンをブロックする薬剤〜LH-RH アゴニスト
たとえば、酢酸ゴセレリン(商品名ゾラデックス)や、酢酸リュープロレリン(商品名リュープリン) が代表的な薬剤です。
月に 1 回打つタイプと、3 カ月に 1 回打つタイプがあります。
ただし、薬剤は効果なので、その薬剤を希望しない場合は、睾丸、つまり精巣を除去するという選択肢もあります。
・副腎からのホルモンをブロックする薬剤〜抗アンドロゲン薬
ステロイド系のもの (酢酸クロルマジノン(商品名プロスタール))と、非ステロイド系のもの (ビカルタミド(商品名カソデックス)、フルタミド (商品名オダイン))があります。
LH-RH アゴニストと抗アンドロゲン薬を併用 したものが、もっとも、がんを制御する力が強いです。
CAB療法 (combined androgen blockade)とも言われています。
内分泌治療の問題点
長く治療を続けていると、ホルモン療法への効果が弱くなることがあります。
その結果、落ち着いていたがんが、再び増殖することがあります。
そのような場合は、は女性ホルモン剤や副腎皮質ホルモン剤などが使用されることがあります。
ホルモン療法の副作用
・性機能障害
性機能障害を避けるためには、非ステロイド系の抗アンドロゲン薬を単独で使う方法がありま す。しかし、効果は高くなく、第一に選ぶべき治療法にはなりません。
・メタボリックシンドロームになりやすい
糖尿病、脂質代謝異常、そして、高血圧といった病気に注意が必要です。
・骨粗しょう症
骨密度を定期的に測定しましょう。
ホルモン療法の効果が乏しくなったときの治療法
初回のホルモン治療の平均的な効果持続期間は3年です。
効果が無くなると、男性ホルモンが低く抑えられているにもかかわらず、前立腺がんは増殖します。
以下の条件のときに、ホルモン療法の効果が乏しくなったと判断します。
血清テストステロン(男性ホルモン)値が50ng/dl未満であるにも関わらず、病勢の増悪したときです。
具体的には、4週以上あけたPSAの測定値が25%以上あがり、なおかつ、2ng/ml以上あがるときです。
1、抗アンドロゲン交替療法
PSA 値が高くなり、がん細胞の増殖が疑われるときは、抗アンドロゲン薬を別の薬に変えます。
LH-RH アゴニスト はそのまま続けます。
LH-RH アゴニストの種類を変更することもあります。
2、女性ホルモン薬との併用療法
抗アンドロゲン薬の代わりに女性ホルモン薬を使います。女性ホル モン薬は男性ホルモンの濃度を下げる働きがあるからです。
この場合も、LH-RH アゴニストの注射は続けます。
3、LH-RH アゴニストと 副腎皮質ホルモン薬との併用
4、最近は、「ザイティガ」「イクスタンジ」という新規のホルモン療法薬を用いることが多くなりました。
新規のホルモン療法薬により、約70%の方は、PSAの数値を半分以下にまで、下げることができます。
約28ヶ月くらい、がんを制御することができると言われています。
ザイティガ
アンドロゲン合成阻害薬です。
1回4カプセルを、毎日、空腹時に内服します。
高血圧や低カ リウム血症の副作用を防ぐためにプレドニンを内服します。
プレドニゾロンの一般的な用量は、1日2回、1回に5ミリグラムです。
ちなみに、ザイティガと兄弟的な位置づけの薬として、アーリーダや、ニュベクオという薬もあります。
ニュベクオは、ザイティガやイクスタンジに比べると、副作用の程度が軽いです。
・ザイティガの副作用
肝機能障害(13%程度)、低カリウム血症(8.4%)、高脂血症(7.4%)、高血圧(4.2%)、疲労(24.6%)、ほてり(15.2%)、悪心(13.4%)、嘔吐(6.9%)、便秘・下痢(約8%)、末梢性浮腫(12.0%)
イクスタンジ
抗アンドロゲン薬です。
1回160mg(2錠あるいは4カプセル)を連日服用します。
2週ごとの採血になることが多いです。
・イクスタンジの副作用
高血圧(14.9%)、便秘(14.9%)、疲労(12.8%)、食欲不振(12.8%)、体重減少(10.6%)、心電図異常(10.6%)など
従来のホルモン療法では、男性ホルモンが50ng/dl以下にすればよいことになっていますが、これらの薬を使用すると2ng/dl以下にまで下げることができます。
一方で、がんの増殖のスピードが速い場合には、新規のホルモン療法ではなく、抗がん剤を用いることになります。
抗がん剤によりがんの勢いを抑えたら、「ザイティガ」「イクスタンジ」に変更することはあります。
そのような場合の「ザイティガ」「イクスタンジ」による、がんを制御する期間は、1年未満になることが多いです。
「ザイティガ」「イクスタンジ」による治療期間中は、ゾラデックスやリュープリンを継続します。
ハイリスク前立腺がんの治療法とは?
骨転移3個以上・グリソンスコア8以上・内臓転移という3つの項目のうち、2つ以上が該当する場合には、ハイリスクと考えます。
そのような場合は、前立腺がんと診断された事典から、ホルモン療法に加えて、ドセタキセルもしくは、ザイティガといった薬剤を併用することもあります。
非常に高いリスクが予想される場合は、「ホルモン療法+ドセタキセル +ニュベクオ」による3剤併療法も、今後、用いることができる可能性が高いとされています。
前立腺がんにおける抗がん剤治療とは?
ドセタキセル、それが無効の場合は、ジェブタナが用いられます。
ドセタキセルの効果は?
約半分の方に、PSAの低下や、痛みを減らすことがあります。
3週に1回うつ点滴の薬です。
「プレドニン」という副腎皮質ステロイドの内服も併用します。
で行います。
ゾラデックスやリュープリンも、継続します。
2023年より、ニュベクオという抗アンドロゲン薬と併用して用いることもできるようになりました。
ドセタキセルの副作用は?
骨髄抑制(80%以上に出現)、食欲不振(約60%)、脱毛(約60%)、全身倦怠感(約50%)、肝・腎機能障害(5から50%)、末梢神経障害(5-50%)、手足の浮腫(5-50%)
浮腫や末梢神経障害は、軽度のものから歩行困難をきたすほど重度のものがあります。投与回数とともに悪化することがあります。
ステロイドを投与することにより、浮腫の悪化を、ある程度は予防できるとされています。
ジェブタナの効果は?
ドセタキセルを用いたことがある方のみしか、用いることができません。
約40%の方に、PSAの低下や、痛みを減らすことがあります。
3週間ごとの点滴による治療です。
治療中はプレドニンの内服を継続します。
ゾラデックスやリュープリンも、継続します。
ジェブタナの副作用は?
骨髄抑制が最大の副作用であり、100%出現します。
白血球減少した場合は、白血球を増やす注射を使用します。
感染していなくても、発熱する場合があります。抗生物質による治療が必要になります。これを発熱性好中球減少といい、半分の方におきます。約3割の方に貧血、5%くらいの方に血小板減少がおきます。
それ以外の副作用は、以下の通りです。
疲労(54.5%)、悪心(47.7)、下痢(45.5%)、食欲不振(36.4%)、.肝・腎機能障害(38.6-93.2%)、末梢神経障害(22.7%)、浮腫(13.6%)
前立腺がんによる骨転移に対する特殊な治療法
ゾーフィゴという薬が、骨転移を制御することに非常に役立ちます。
ゾーフィゴは放射性医薬品です。アルファ線と呼ばれる放射線をだして、骨に転移したがん細胞をたたきます。
臨床試験では、生存期間を約4か月のばし、骨転移に伴う症状を緩和します。
ゾーフィゴは4週間ごとに最大6回まで、約1分間かけて注射する薬物です。
ゾーフィゴのために他の人が被ばくする恐れはある?
アルファ線は、体内で0.1ミリ未満の範囲にしか影響を及ぼさないため、周囲の方への影響はほとんどありません。
ただし、注射後1週間くらいは、血液、尿、便などに放射性物質が残る可能性があり。排尿後は、トイレの水を2回程度流すといった注意が必要です。
他の抗がん剤(ドセタキセル、ジェブタナ、イクスタンジ、ザイティガ)との併用はしません。従来のホルモン治療(ゾラデックス、リュープリン、ゴナックス)は継続します。また、骨病変の治療としてゾメタやランマークを用いるならば、それらも継続します。
ゾーフィゴの副作用は?
骨髄抑制(32.7%)、下痢(10.2%)、悪心(10.2%)、骨痛(15.8%)、疲労(12.2%)
必ず、抗がん剤治療やホルモン療法をうけないといけない?
現在症状がなく、進行の遅い前立腺がんであれば、何も治療をしなくても、天寿を全うできることはあります。
一方で、進行が早ければ、数ヶ月後には症状が出現する場合もあります。
現在症状がある場合は、さらに悪化します。
症状がある場合には、治療を受けた方が良いです。
もし、何も症状がない場合は、慎重に経過をみて、症状がでそうなときに、治療をスタートするという選択肢もあります。
参考文献