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前立腺全摘後の尿もれの対処法とは?そして放射線治療の治療成績についても医師が解説

 2023/08/17 前立腺がん  

こんにちは。加藤隆佑です。

ガン治療を専門に、総合病院で勤務しています。

さっそく本日の本題に入りたいです。

前立腺がんの手術は、前立腺を全部摘出しますが、前立腺の全摘出後に尿もれ(尿失禁)が発生することは、患者さんの大きな懸念事項となっています。

本日は、前立腺摘出後の尿漏れの頻度と対策について解説いたします。

前立腺全摘後に尿もれが出る理由について

一部の方は、前立腺の中のガンの部分だけを取り除けば良いと思われるかもしれません。そうすることで、尿漏れが生じる確率を減らすことがでるからです。

しかし、実際に、そのようなことができないのは、以下のような理由が挙げられます。

①前立腺がんは臓器内に多くできること
②小さな臓器であるために部分切除が難しいこと

そして、近年、ロボット支援腹腔鏡下手術が普及してきました。

この手術法は非常に繊細で、尿もれの後遺症のリスクを大幅に削減することができると言われています。

しかし、完全にリスクをゼロにするわけではありません。さらに、術後の一過性の尿もれは、ほぼ避けることはできません。なぜならば、尿道括約筋のギリギリのところで前立腺を切除していくので、一過性とはいえ、尿道括約筋の機能低下は多少なりとも生じるからです。

その結果、術後は、尿もれは必発なのです。

手術後の尿漏れの頻度と対策は?

全く尿もれをしないという方も、いらっしゃいますが、非常に稀な話です。

ロボット支援腹腔鏡下手術を受けて、1ヶ月後における尿もれの状態は以下のようになっています

  • 20人は尿漏れなし
  • 70人は1日に1回程度の尿とりパットの交換
  • 10人は1日に2〜3回の尿とりパットの交換

9割以上の方は、日常生活への支障が非常に少ない結果となっています。

さらに、術後数ヶ月から半年で尿もれの症状は改善することが多いですが、約9%の患者さんには尿もれが持続するとされています。

残念ながら、6ヵ月を過ぎても尿漏れが続く場合は、その後も好転しにくいと言われています。

尿もれの対処法としては、骨盤底筋体操や薬物療法が挙げられます。また、人工尿道括約筋手術という選択肢もありますが、これは日本ではまだあまり普及していない手法であり、アメリカと比較すると受ける人が少ない状況です。

1、骨盤底筋体操

骨盤底筋は、骨盤の下部にある筋肉で、排尿や排便をコントロールする役目を果たす筋肉です。

骨盤内の臓器をハンモックのように支える役目もしています。

この筋肉を鍛えることで、尿漏れは改善します。

ただし、体操をしたからすぐに効果が出るわけではなく、半年から1年くらい根気よく行う必要があります。

2、薬物療法

3、人工尿道括約筋手術

日本では年間180から200件(前立腺全摘を受けた人の1%)しか受けていませんが、
アメリカでは7%くらいの人が受けています。

尿とりパットを1日あたり3から4枚使う方が、この治療の対象になります。

注意点として、排尿のたびに、ポンプ操作をする必要がありますし、尿失禁が0になるわけではありません。

半分の人はパット使用量が1枚くらいになり、残りの半分の人はパットが無しになるというイメージです

手術後に埋め込んだ機械に故障が起きたり、感染が起きたりすることもあり、耐久年数としては5年で75%くらい、10年で70%くらいとされています。

尿もれがひどくて、外出できなくて、気持ちが落ち込む方もいらっしゃいます。

そのようなことがないように、周囲の方がケアすることも大切になります。

尿漏れの後遺症を気にするならば、放射線治療の方が良い

前立腺がんの治療を選択する際、尿もれの後遺症を懸念するなら、放射線治療が適しています。

放射線治療を受ける期間、尿道に放射線が当たることで、一時的に尿もれや頻尿が起こりますが、これが長期の後遺症に繋がることは稀です。

興味深いデータによれば、放射線治療の1つである粒子線治療(陽子線治療や重粒子線治療のこと)は、わずかではありますが、手術よりも治療の成果が高いことを示唆している報告もあります。

そのような観点からも、粒子線治療(陽子線治療や重粒子線治療のこと)が完治の確率が上がることでしょう。

ちなみに、前立腺がんのステージごとの治療法は、以下の通りです。

・ステージ1の前立腺がん(画像では癌を視認できず、生検でわかる)

手術と放射線治療のどちらかを選択

・ステージ2の前立腺がん(画像で見える、前立腺に原曲)

手術と放射線治療のどちらかにを選択

・ステージ3の前立腺がん

がんが前立腺の外にはみ出ること状態であり、放射線治療+ホルモン療法となります。

・ステージ4の前立腺がん

膀胱や腸に浸潤したり、転移ありの状態のことです。

ホルモン療法になりますが、ホルモン療法の経過中に放射線治療をすることもあります。

どのステージにおいても、放射線治療は選択肢に入りますので、医師から手術を提示された場合には、放射線治療も同時に検討してもらうことが必要になることがお分かりになるかと思います。

そして、放射線治療の1つである粒子線治療は、治療成績が、少しではありますが、手術よりも良いことを示唆している報告もあります。

さらに放射線治療には、尿漏れの後遺症がないことを考えると、手術で前立腺全摘をするという選択肢は、今後は、減っていくのかもしれません。

放射線治療のデメリットは?

放射線治療の問題点は、治療の際に放射線が直腸にあたり、直腸から血が出やすくなることがあることが数パーセントの確率で生じることです。

あと、1ヶ月近く通院が必要になることも、デメリットの1つでしょう。

(手術の場合の入院期間は約10日)

時間の問題は仕方ありませんが、直腸から血が出やすくなっても、レーザー治療で、解決することができます。さらに、最近は、直腸に放射線が当たらないようにする技術もあります。

そのような観点からも、前立腺がんの治療においては放射線治療の方が良いのかもしれません。

 

 

 

参考文献
Systematic Review and Meta-analysis of Studies Reporting Urinary Continuous Recovery After Robot-assisted Radical Prostatectomy. Vincenzo F., et al, Eur Urol 2012, 62: 405 – 417

Proton Therapy for Localized Prostate Cancer: Long-Term Results From a Single-Center Experience.Masaru Takagi, Yusuke Demizu, Osamu Fujii et al.
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2021 Mar 15;109(4):964-974.

執筆医師:加藤隆佑


癌治療認定医
内科学会認定医
消化器病学会専門医・指導医
消化器内視鏡学会専門医
肝臓専門医・指導医
札幌禎心会病院がん化学療法センター長

(2021年9月までは、小樽協会病院消化器内科に所属)

消化器領域のがん(食道、胃、すい臓、肝臓、胆のう、大腸)を専門としつつ、がん全般についてアドバイスをしています。

緑書房より「抗がん剤治療を受けるときに読む本」「大腸がんと告知されたときに読む本」「がんと向き合うために大切なこと」を出版。

加藤隆佑医師の論文

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