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膵臓がんの手術と、その合併症、入院期間を医師が解説!

 2021/01/20 膵臓がんコラム  

こんにちは。加藤隆佑です。

本日は、膵臓がんの手術と、その合併症、入院期間、ならびにどのような病院で手術を受けるべきかを、解説いたします。

膵臓がんの手術はどのようなときに行われる?

以下の条件を満たす時に、膵臓がんの手術を行われます。

1、遠隔転移がない

つまり、肺、肝臓、腹膜、膵臓から遠く離れたリンパ節に転移をしてないということです。

2、上腸間膜動脈や腹腔動脈といったような重要な血管への浸潤がない

3、手術に耐えられる体力がある

以上の条件を満たす時に、手術が行われます。

ちなみに、10年くらい前には、本来は手術をすべきではない方にも、手術が行われることがありました。その結果、手術をしても、すぐに再発してしまったり、手術で取り残しがあるケースがたくさんありました。

しかし、最近は、どのような方に手術をしたらよいか?が、かなりはっきり分かるようになりました。

その結果、不要な手術をかなり避けられるようになってきています。

手術の対称となるのはステージ0、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの症例の一部です。

また、切除できるような膵癌であっても、「手術前に、放射線治療と抗がん剤治療をしばらく行った上で、手術を行った方が、治療成績が良い」ことも、判明しています。

膵臓がんは、どのような手術が行われる?

がんの存在する場所によって、手術方法が異なります。

膵頭部領域にがんがあれば、「膵頭十二指腸切除術」が選択されます。

膵頭十二指腸切除術とは?また、その手術時間は?

全身麻酔下に20センチほど開腹をします。

膵臓の右側、胃の一部、十二指腸、小腸の一部、胆のう、胆管をまとめて切除します。

膵臓周囲の脂肪、神経なども一緒に摘出します。さらに、転移の可能性のあるリンパ節を同時に切除します。

下の図で説明しますと、黒で囲まれた部位が切除する場所です。

摘出した後は、膵臓と小腸、胆管と小腸、胃と小腸の順に、つなぎ直します。

つまり、3箇所つなぎ合わせないということになります。このことは、けっこう大変なことです。

その結果、「膵頭十二指腸切除術」は、腹部のがんの手術の中では、もっとも難易度が高いとされています。

手術にかかる時間はおよそ6-8時間です。

膵頭十二指腸切除は、複雑で大きな手術ですので、合併症が起こることは少なくありません。

小さな合併症まで含めると、合併症の発生率は40から50%です。

しかし、最近は、外科技術や手術前後の管理の進歩により、発生率は減りました。

術中や術後の合併症で、致命的になる割合は、全国平均で2.9%です。

手術件数の多い国立がんセンターでは、0.7%という報告になっています。

再手術になる割合は、全国平均で5.8%、国立がんセンターでは2.1%です。

手術件数の多い病院として、国立がんセンターをあげましたが、膵臓がんの手術は、手術件数の多いところで、受けるべきです。

膵体尾部切除術とは?

膵体尾部切除は、膵体部または膵尾部のがんに対して行われます。

膵体尾部または膵尾部を、脾臓、周囲のリンパ節、神経、脂肪組織とともに切除します。

下の図で説明しますと、黒で囲まれた部位が切除する場所です。

手術の難易度は、膵頭十二指腸切除術に比べれば、容易です。

手術にかかる時間はおよそ3-4時間です。

膵体尾部切除では合併症発生率は30-40%ですが、術中や術後に生じる合併症で、致命的になる割合は1%未満です。

ちなみに、膵頭十二指腸切除と尾側膵切除を同時に行う膵全摘術というのもあります。

膵臓がんの手術が、腹腔鏡手術は行われることは、あるのか?

おなかに小さな孔(あな)をあけ、そこから内視鏡と細長い手術道具を使って、モニターを見ながら手術する治療法があります。

これを、腹腔鏡手術といいます。

膵頭部十二指腸切除術では、腹腔鏡手術がされることは、一般的ではありません。

しかし、膵体尾部切除では、腹腔鏡手術が行われることは、少しずつ広がっています。

5ミリや10ミリの小さい創が5〜6か所ですむために、術後の痛みが少ないです。

手術時間は3〜4時間程度で開腹手術と変わりません。

膵ぞう癌を手術で取り除けないときにも、手術が行われることがある。

がんに対する治療を目的とはせず、症状を和らげることを目的とした手術を、行われることがあります。

たとえば、膵癌がんによって、食べ物の通り道が狭窄して、食べ物が通らない場合には、バイパス手術が行われます。

つまり、食べ物の通り道を作る手術ということです。

手術後の痛みは、かなり取り除くことができます。

手術後2から3日間は手術の傷の痛みが、最も強い時期です。

この時期には、背中に入っているチューブから、痛み止めの薬を持続的に投与します。

そのようにすることにより、痛みはかなり和らぎます。

これだけでは痛みを十分に取り除けないときには、注射や座薬を用いて、痛みをとるようにします。

4日目以降には、痛みは軽くなります。そこで、のみ薬の痛み止めに変更します。

手術後1週間で、痛みはかなり良くなります。退院後、しばらくの間は、傷の痛みを感じることもありますが、次第に痛みはとれてきます。

痛みを、がまんしていはいけまん。

痛みをとって、体を動かすようにして、体力をアップさせていきましょう。

膵臓がんの手術後で、最も大切なこととは?

手術によって、体力を落とさないことが大切です。

そこで、最近は、手術翌日から、立って歩くリハビリを始めます。

食事は3日目からスタートすることが多いです。

なるべく早くから体を動かし、なるべく早い段階から、食事をスタートさせることにより、体力の消耗を最低限にします。

手術を受けるならば、このようなことをしっかりやってもらえる病院を選択しましょう。

入院期間は、合併症が無ければ14日程度ですが、持病の状況や合併症の発生状況によって、もっと長くかかることがあります。

膵臓がんの手術後の合併症とは?

約10から20%の頻度で起こる合併症について、解説します。

膵液漏(すいえきろう)

膵臓と腸のつなぎ目から、膵液が漏れることを膵液漏といいます。

手術の際に、膵液漏のときに迅速に対応できるように、お腹に管を数本いれて、手術を終えていますので、この管から膵液を回収することにより、治療します。

腹腔内膿瘍(ふくくうないのうよう)

おなかの中に膿がたまる状態です。

手術の際に、腹腔内膿瘍や膵液漏のときに迅速に対応できるように、お腹に管を数本いれて、手術を終えているので、この管から膿を回収して、治療します。

このような合併症が発生せず、経過が良ければ、術後3から5日目に管を抜きます。

膵癌の手術後に気をつけないといけないこと

1、体力を落とさないようにする。

しっかりとリハビリをしましょう。自宅に帰ったら、運動をすることが大切です。

こちらに、退院後に、自宅ですべきことを書いています。

2、食事内容に気をつける。

がんの手術後は、体力が落ちています。

退院の直後から以前と同じような生活を送ると体に負担を与えます。体力の温存を意識して生活することが大切です。

また腹部の手術後しばらくは、なるべく消化のよいものを食べましょう。以下のものを大量に食べると腸閉塞を起こすことがあるからです。

  • ごぼうといった繊維質の多いもの
  • 水分を吸って膨らむ昆布などの海藻類
  • 噛まないで飲み込みがちなそばや、中華麺

手術後しばらくはこれらの食品を控えめにするか、細かく刻みよく噛んで少しずつ食べましょう。

注意点ですが、これらのものを食べてはいけないと言っているわけではありません。

たとえば繊維が多いものは体に必要なものであり、むしろ積極的に体に取り入れて欲しいです。

そこで、取り入れる量や食べ方には注意を払っていきましょう。その際には、調理法を工夫するという手もあります。

また、膵臓がんの手術後に、糖尿病になったり、脂肪肝になることがあります。

血糖値の推移や、脂肪肝にならないかを確認する必要があります。

糖尿病になる理由

膵臓の半分を切除することにより、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが不足して、血糖値が高くなるからです。

ただし、膵臓を半分切除するくらいでは、糖尿病にはなりませんが、もともと素因がある方は糖尿病になることがあります。

治療としては、内服薬の服用や、インスリンの皮下注射が必要になることがあります

脂肪肝になる理由

膵臓を切除すると、消化液である膵液の分泌が減ります。

その結果、消化吸収障害が起こり、結果として下痢しやすくなったり、脂肪肝になったりします。

脂肪肝になった場合は、膵液の代わりになる消化剤を服用すると、改善します。

3、膵臓がんが、再発をしないような工夫をする。

手術後に、しばらくの間抗がん剤ちりょうを受けることになります。

膵癌の再発する確率を下げるためです。

しかし、抗がん剤だけでの治療では、十分に再発率はさげられません。

膵臓がんの再発率を、さらに下げるためにすべきことは、こちらです。

 

参考資料:がん情報サービス〜膵臓〜治療

 

 

 

執筆医師:加藤隆佑


癌治療認定医
内科学会認定医
消化器病学会専門医・指導医
消化器内視鏡学会専門医
肝臓専門医・指導医
札幌禎心会病院がん化学療法センター長

(2021年9月までは、小樽協会病院消化器内科に所属)

消化器領域のがん(食道、胃、すい臓、肝臓、胆のう、大腸)を専門としつつ、がん全般についてアドバイスをしています。

緑書房より「抗がん剤治療を受けるときに読む本」「大腸がんと告知されたときに読む本」「がんと向き合うために大切なこと」を出版。

加藤隆佑医師の論文

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