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卵巣がんの治療の流れ|症状と診断ならびに治療を医師が解説

 2021/01/14 卵巣がん  

こんにちは。加藤隆佑と申します。がん治療の専門医として、小樽協会病院で勤務しています。

さて、私の18年間のがん治療の経験を踏まえて、卵巣がんの治療の流れと、卵巣がんを克服するためのコツを書いていきます。

卵巣がんの初期症状(自覚症状)

卵巣は、子宮の両脇に1つずつある臓器です。

はじめは、ほとんど症状がありません。下腹部にしこりが触れる、おなかが張るといった症状で、受診されることが多いです。

しかし、このような症状があるときには、卵巣がんが進行していることも少なくありません。

特に、急なお腹の張りや痛みなどがある場合には、早めに受診しましょう。

ちなみに、卵巣がんについては、定められている検診は、ありません。また、BRCA1、BRCA2という遺伝子が関係する、家族性の卵巣がんもあります。しかし、全体の1割にも、満たないです。

卵巣がんを疑う症状がある時に行われる検査とは?

超音波検査をして、卵巣が腫れていないかを確認することになります。

超音波検査とは?

1、体表からの超音波検査

超音波装置を体の表面にあてて、腹部の中の観察をします。正常な卵巣であれば、体表の超音波検査では、卵巣を描出することは、できません。正常な卵巣は、大きさが小さく、描出できないのです。

卵巣が腫大すると、体表からの超音波検査でも、描出できるようになります。

2、腟の中からの超音波検査

腟の中から超音波をあてて調べる超音波検査です。より近い距離から、卵巣を観察できるために、正常な卵巣であっても、描出することができます。

以上の検査より、卵巣が異常な形態になっていないかを確認します。

異常な形態をしていたら、卵巣がんの可能性を視野に入れて、精密検査を進めることになります。

血液検査、CT検査、そしてMRIの検査を追加することになります。

CT検査とは?

CT検査では、X線を利用して、卵巣から離れた場所への転移の有無や、リンパ節転移の有無などを確認します。

MRI検査とは?

磁気を利用して、周囲の臓器への腫瘍の広がりや、腫瘍の大きさ、性質や状態を確認します。

卵巣がんにおける血液検査とは?

血液検査によって、以下のことがわかります。

1、腫瘍マーカー

卵巣がんではCA125と呼ばれる腫瘍マーカーなどを検査します。

しかし、がんがあっても、必ずしも腫瘍マーカーが上昇するとは限りません。

腫瘍マーカーは、手術後の再発のチェックや抗がん剤治療の効果判定の参考に使われます。

2、臓器の機能が正常化かどうか?

腎機能や肝臓の機能を確認します。

もし、これらの臓器の機能が低下しているようであれば、手術や抗がん剤治療による合併症が起こりやすくなります。

糖尿病がないかどうかも、チェックします。

糖尿病があり血糖値が高いときは、卵巣がんの治療の前に、糖尿病の治療を優先しないといけないことも、あります。

卵巣がんの最終診断に至るには、手術で細胞を採取する必要がある。

これらの検査を行い、卵巣がんの可能性が否定できない、もしくは卵巣がんであろう診断になれば、手術をすることになります。

手術をして、がんと取り出すことにより、がん細胞の顔つきが、はっきりします。

ちなみに、卵巣がんの顔つきには、4つのタイプがあります。

最も多いのは、漿液性卵巣がんであり、抗がん剤が非常に効きやすいです。

類内膜腺がんは、子宮体がんを合併することがあります。また、漿液性卵巣がんと同様に、抗がん剤が効きやすいです。

粘液性卵巣がんと、明細胞腺がんは、漿液性卵巣がんに比べると、抗がん剤が効きにくいです。

卵巣がんのステージは、どのように決まるのか?

ステージは、手術の所見、CT、MRI所見より、決定します。ステージの詳細は以下の通りです。

ステージ1Aとステージ1B

がんが、卵巣だけにとどまっている。
(1Aの場合は、卵巣がんが、片方にしかない状態。2Aの場合は、両方の卵巣に、がんが、ある)

ステージ1C

卵巣の表面をおおう膜が破れたり、卵巣の表面をおおう膜にがんが浸潤して、腹膜への卵巣がんの転移の可能性がある状態。もしくは、腹水に、がん細胞を認めるもの。

ステージ2

がんが、卵巣周囲の臓器(卵管、子宮、直腸、膀胱)などに、広がっている。

ステージ3

骨盤の内部だけでなく、骨盤の外側に腹膜播種している。もしくは、後腹膜リンパ節に広がっている。

ちなみに、腹膜播種とは、お腹の中の、腹膜という部位に、種がまかれるようにバラバラと、がんが、広がることです。

ステージ4

ステージ4A:胸水中にがん細胞を認める。
ステージ4B:がんが腹腔を超えて転移している(そけいリンパ節も含める)。もしくは、肝臓や肺といった遠くの臓器に転移している。

 

最後に、卵巣がんのステージごとの治療法の、大まかなことを、説明いたします。

ステージに応じた治療法

ステージ1の治療法

手術で、卵巣がんを取り除きます。

その後、切除した卵巣がんを顕微鏡で観察して、ステージを確定します。

ⅠA・ⅠB、かつgrade 1と診断された方は、いったん積極的な治療は終了となります。つまり、再発がないかを、定期的に検査で確認していくだけになります。

「ステージⅠA・ⅠBで、grade 2以上」の方、「ステージ1C」や、「卵巣がんが、明細胞がんというタイプ」の場合には、副作用に耐えられる体力があれば、抗がん剤治療を短期間受けることにより、再発率を下げていきます。

がんを手術で全部切除できたように見えても、すでにがん細胞が別の臓器に転移している可能性があるからです。

術後の抗がん剤治療は、負担のない範囲で受けることは大切です。

がんの再発を抑える方法は抗がん剤以外にも、あります。

いろんなことを取り入れて、がんの再発を抑えていきましょう。

ステージ2とステージ3で、手術前の検査で、卵巣がんをすべて取り除けると判断された場合

手術で、がんを切除します。

その後は、抗がん剤治療を短期間受けることにより、再発率をさらに下げます。

一方で、実際に手術を試みたら、がんが広がりすぎていて、がんを取り除けないこともあります。そのような場合は、手術でがんを、取り除けるだけ切除します。

卵巣がんが、体内に残る量を、極力少なくします。

残っているがんの大きさが、小さいほど、予後が良くなるからです。

その上で、抗がん剤治療を追加して、卵巣がんを叩くという治療になります。

さて、術後の再発予防の抗がん剤治療を受けたとしても、再発率が多いことは、注意点として挙げられます。

特に、ステージ3の卵巣がんになりますと、5年生存率はおよそ20%台なのです。

一方で、最近は新しい分子標的薬が開発されていますので、今後は、もっと治療成績がよくなると思われます。

ステージ2とステージ3で、手術前の検査で、卵巣がんをすべて取り除けられないかもしれないと、判断された場合

2つの治療方針が考えられます。

  • 手術で、可能な限り、がんを切除して、その後、抗がん剤治療で、がんを叩く。
  • 抗がん剤治療でがんを縮小させてから、手術をする。

ステージ4の治療法

肝臓、肺、腹膜、複数のリンパ節に、がん細胞がある状態のことです。この状態は、がん細胞が、体に広く散らばっていると予想されます。

抗がん剤治療でがんを縮小させて、手術ができる状態になれば、手術をします。

がんをとれるだけ手術で切除してから、抗がん剤治療になることもあります。

ステージ4であっても、抗がん剤と手術で、完全寛解にもっていける方も、います。

しかし、残念ながら、そのようにならないこともあります。

「寛解になるか、否か」が、予後に影響を与える分岐点になります。

ちなみに、寛解とは、がんを画像状で指摘できない状態のことです。

寛解をめざして、取り入れられることは、すべて取り入れて、治療を受けていきましょう。

卵巣がんは、完治を望める病気になりました。

卵巣がんは、以前に比べると、克服できる病気になってきました。

引き続き、卵巣がんの新しい治療法や薬などをご紹介していきますね。

 

 

 

 

<参考文献>

がん情報サービス卵巣がん治療 https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/treatment.html

がん情報サービス卵巣がん検査 https://ganjoho.jp/public/cancer/ovary/treatment.html

がん研有明病院 卵巣がん https://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/ovary.html

東邦大学医療センター大森病院 卵巣がんについて
https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/gyne_oncology/patient/explanation/ovary_cancer.html

参考資料:『卵巣がん 受診から診断、治療、経過観察への流れ』国立がん研究センターがん報サービス

参考資料:日本癌治療学会がん診療ガイドライン〜卵巣がん

執筆医師:加藤隆佑


癌治療認定医
内科学会認定医
消化器病学会専門医・指導医
消化器内視鏡学会専門医
肝臓専門医・指導医
札幌禎心会病院がん化学療法センター長

(2021年9月までは、小樽協会病院消化器内科に所属)

消化器領域のがん(食道、胃、すい臓、肝臓、胆のう、大腸)を専門としつつ、がん全般についてアドバイスをしています。

緑書房より「抗がん剤治療を受けるときに読む本」「大腸がんと告知されたときに読む本」「がんと向き合うために大切なこと」を出版。

加藤隆佑医師の論文

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