大腸がんの手術後の抗がん剤治療に用いられるオキサリプラチンを、省略できることが判明!

こんにちは。がん治療専門医の加藤隆佑です。

2021年に、大腸がんの治療のガイドラインを大きく見直さないといけないと思われる臨床試験の結果がでました。

結論からいいますと、以下のようになります。

「大腸がんの手術後の抗がん剤に用いられることが多いオキサリプラチンを、省略することができるであろう。」

この臨床試験の結果は、非常に大きなインパクトを与えます。

従来の大腸がんの手術後の抗がん剤治療とは?

「ステージ3の大腸がん」の診断になれば、手術後に抗がん剤を半年行うというものです。

そして、5−FU系の抗がん剤とオキサリプラチンを併用するという内容でした。

大半の方は、こちらの治療を受ける事になります。

もし、体力がなくて、この治療に耐えられることが難しいと予想される場合には、5−FU系の抗がん剤のみを投与することになっていました。

5−FU系の抗がん剤とは?

以下のような薬剤のことです。

  • UFT+ロイコボリン(内服)
  • エスワン(内服)
  • ゼローダ(内服)
  • 5ーFU+LV(注射)

上記のどれかを用いることになります。

そして、治療に耐えられると予想される方には、5-FU系の薬剤に、オキサリプラチンが上乗せされます。

オキサリプラチンを本当に上乗せした方が良いのか?

オキサリプラチンを上乗せして本当によいのか?という議論は、長年ありました。

以下のような理由です。

理由1、オキサリプラチンを用いると、その副作用である末梢神経障害で、多くの患者は悩まされる。

オキサリプラチンの副作用である末梢神経障害により、しびれが残り長く悩まされる方は非常に多いのです。

理由2、「オキサリプラチンを5ーFU系の抗がん剤に併用することにより治療成績を向上できた」と示す根拠は、欧米のデータのみである。

理由3、欧米と日本とでは、手術の質が全く違う。

日本の手術の場合は、リンパ節廓清が欧米よりもしっかり行われています。

その結果、リンパ節廓清をしっかり受けておけば、「オキサリプラチンを加えず、5ーFU系の抗がん剤だけでも、十分にがんを制御できるのでは」という意見がありました。

ちなみに、リンパ節廓清とは、大腸がんが転移する可能性のあるリンパ節を予防的に切除することです。

しかし、「日本人におけるオキサリプラチンを上乗せすることによるメリット」に関するデータがないので、欧米の流れをくんで、オキサリプラチンを加えた術後補助化学療法が主流になったわけです。

このような背景がある中で、2021年に、日本人におけるオキサリプラチンを上乗せして本当によいのか?のデータが、発表されたのです。

日本人におけるオキサリプラチンを上乗せすることの効果を問う臨床試験の結果は?

その結論ですが、上乗せ効果はなしということになりました。

以下のものが論文のタイトルです。

もう少し詳しく言うと、以下のようになります。

ステージ3の大腸がんの中でも、オキサリプラチンを加えることにより、大腸がんが無再発でいる割合を、やや押し上げる傾向があるのは、以下の状況のみ。

  • ステージ3C
  • リンパ節転移が7個以上のケース

ステージ3全体でみてみると、オキサリプラチンを加えても、大腸がんの無再発でいる割合を高めることには寄与しない。

 

今後は、ステージ3Aやステージ3Bの大腸がんの診断になった場合は、オキサリプラチンを加えず、5-FU系だけの抗がん剤を半年間内服するという考え方が広がると予想されました。

そして、ステージ3Cや、リンパ節転移が7個以上のケースでのみ、オキサリプラチンを加えるという流れになると思われました。

この内容は、実際の診療において、反映されず。

この内容があってから3年近く経っても、いまだに、実際の臨床においては反映されていません。

その理由として、

1.欧米のガイドラインでは、ステージIII大腸がんに対してオキサリプラチンを併用した化学療法が第一に推奨される

2,日本の医療現場では、国際的な標準治療に準拠しようとする傾向

ということが挙げられます。

私の見解としては、

ステージ3の術後補助化学療法では、オキサリプラチンを追加した治療を行う選択肢が考えられます。

しかし、オキサリプラチンを省略する可能性がある場合には、その選択肢について患者さんにきちんと説明することが重要です。

また、オキサリプラチンを省略する可能性を考慮できるケースにおいて、投与中にコントロールが難しい副作用が出た場合に、速やかに投与を中止する方針を持つことも大切です。

5−FU系の抗がん剤ならば、どれが一番よい?

5-FU系ということでは、以下の4つの選択肢があります。

  • UFT+ロイコボリン(内服)
  • TS-1(内服)
  • カペシタビン(内服)
  • 5ーFU+LV(注射)

どれもが、同じ治療成績というわけではありません。

これまでの治療成績を踏まえると、私の意見としては、カペシタビンが一番よいと考えます。

ただし、大腸がんの再発は、抗がん剤をのめば、それでよいというわけではありません。

再発には、食生活も大きな影響を与えます。

大腸がんの再発を抑えるために、知ってほしいことは、こちらで説明してます。