がんによる腹水に対して、すぐにCART療法を受けることが難しい時の対処法
こんにちは。癌治療を専門に総合病院で医師をしている加藤隆佑です。
がんによる腹水で、お腹がはり、動く事がしんどくなり、食事量も減ってしまうことがあります。
本日は、そのような時の対処法をお伝えします。
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すぐに、CART療法をしてもらうことができる時
そのような環境であれば、CART療法をしてもらうと良いです。
CART療法とは、腹水濾過濃縮再静注法のことです。
お腹に小さなストローみたいなものを刺すことにより、腹水を外にだします。
その腹水をろ過して、栄養成分だけを抽出して、体の中に戻します。
そうすることで、腹水の中にある体に有用な成分を、体に戻すことができます。
ただ、CART療法をするだけでは、再び腹水が溜まってしまうことが懸念されるので、利尿剤などを併用して、腹水が再びたまりにくくする工夫を追加すると良いです。
しばらくしたらCART療法をしてもらえるとき
例えば、あと、1週間でCARTをしてもらえる状況を、考えてみましょう。
あと1週間でCART療法をしてもらえるとしたら、「それまで我慢しよう」と思われるかもしれません。
それでもよいのですが、我慢する期間中に、体力を消耗しないように注意をしてください。
1、CARTまでの期間は、食事をしっかり食べられる。
2、動くことができて、体力が低下しない。
そのような状況であれば、CARTの治療日まで待ってもらって構いません。
一方で、腹水がたまりすぎて、食事もほとんど食べられず、歩くこともできないくらいの状況に置かれる場合もあります。そのような状況ですと、CART療法をうけるまでの待機期間中に、かなり体力を消耗してしまいます。
そのような時には、CART療法をしてもらえるまで、たまった腹水を我慢するのではなく、応急処置的に、腹水を抜いてもらってほしいです。
そして、食事を食べられて、体を動かせるようなコンディションにしてもらってほしいです。
CART療法のかわりに、腹水をぬくだけの応急処置だと、腹水の中の栄養を失い、体がよわってしまうかもしれないと不安と思われるかもしれません。
しかし、そうではありません。その理由は後述します。
腹水を抜いてしまうと、体の栄養が減り、腹水を抜くことが癖になる?
このようなことを主張する医師がいます。
これは、大嘘です。
確かに、がんの場合ですと、例えば、3リットル前後の腹水をぬくと、約75グラムのタンパク質を喪失すると言われています。
75グラムのたんぱく質といったら、大変な量と思われるかもしれません。
しかし、腹水があるがために、食べられない・動けないという状況が、長く続く方が、もっと問題です。
そちらの方が、体はもっと弱ります。
腹水の症状がつらくて食事がたべられないときは、1日も早く、腹水を抜いてもらってください。
もちろん、体内から、たんぱく質の損失を減らすために、CART療法をできるのであれば、そちらの方が良いです。
しかし、それがすぐにできない場合は、1日も早く、腹水を抜いてもらい、食事・運動をできるようにしてほしいです。
腹水だけを抜く処置で、本当に大丈夫?
訪問診療で腹水を抜く治療をしている、何人かの医師のコメントを、以下に列挙します。
在宅でも外来でも緩和ケア病棟でも、体力的にギリギリの人以外は遠慮なく抜いていますが、問題起きたことはないです。
ただ、ずっと腹水パンパンで紹介された人は、食べられなくて血管内は栄養も水分も足りない状態になってることがあるので、初回抜きすぎると血管内から腹腔内にさらに水分が移動して「ものすごくだるかったので、もう抜きたくない」と言われたことはあり、「初回が一番だるくなりやすい」と説明して、初回だけ控えめにすることが多いです。
2回目以降は抜けるだけ抜いてます。
2日に1回7リットルずつ抜いている人がいますが、食事が摂れるようになって元気になってきたし、腰から下の浮腫もほぼ解消されて自分で動けるようになったし、なにより表情が明るくなって、前向きに過ごせるようになっているのが嬉しいです。
今日のまとめ
腹水が溜まって辛い時は、すぐにCART療法をしてもらうのがベストです。
しかし、すぐにやってもらえない方もいることでしょう。
そのような状況で、食事摂取量が減り、動くことも難しくなっている時は、ひとまず、腹水だけでも抜いてもらってほしいです。
そして、1日も早く、食事から、栄養をしっかり摂れるようにしてほしいです。
もし、主治医が、「体が弱るから、抜くのは、極力やめた方が良い」と言われたとしても、それは嘘です。
「辛いから、抜いてほしい」と強くお願いしてください。
余談ですが、CART療法は2週に1回しかできませんので、1週間くらいで腹水がたまってしまうケースにおいては、CART療法と、単に腹水を抜くことをミックスしてやることもあります。
文献:Management of symptomatic ascites in hospice patients with paracentesis: a case series report