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有望視されている、未発売や未承認の抗がん剤を解説

 2021/01/20 新薬  

こんにちは。加藤隆佑です。がん治療を専門に総合病院に勤務しています。

抗がん剤に対して、様々な治療薬が開発されています。

近い将来使えるであろう効果が期待される薬剤をご紹介いたします。

食道がん

1、「ニボルマブ+抗がん剤」と「ニボルマブ+イピリムマブ」は、PD-L1の発現が1%以上の食道がんの方に対して、化学療法単独に比べると、より良い治療成績でした。

「ニボルマブ+抗がん剤」と「ニボルマブ+イピリムマブ」は、将来的には、承認される可能性があります。

(ニボルマブ+化学療法群には、ニボルマブ240mgを2週毎、化学療法は4週を1サイクルとして、フルオロウラシル800mg/m2を1〜5日目に、シスプラチン80mg/m2を1日目に投与。ニボルマブ+イピリムマブ群には、ニボルマブ3mg/kgを2週毎、イピリムマブ1mg/kgを6週毎に投与)

胃がん

1、「レンバチニブ+免疫チェックポイント阻害薬」による治療も、導入される見込みが高そうです。

2、HER2が陰性である胃がんのファーストラインにおいて、PDL1の発現の程度にかかわらず、「免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブを併用した抗がん剤治療」も、承認されました。

ちなみに、HER2が陽性の胃がんに対して、トラスツズマブ、フルオロピリミジン系抗癌薬と白金系抗癌薬にキートルーダ を加えると、治療成績がより良くなる可能性が指摘されています。

つまり、HER2が陽性の胃がんに対しても、免疫チェックポイント阻害薬を追加する意義はある可能性が高そうです。

ちなみに、HER2が陽性の胃がんの場合は、PDL1が陽性であることが多い傾向があります。

3、ドセタキセルという治療歴のある方に対して、「FOLFIRIとラムシルマブ併用」の治療が有効であるという報告があります。これも期待ができる治療法です。

4、手術ができないステージの胃がんの方のうち、約3%くらいの方は、マイクロサテライト不安定(MSI)があると言われています。そのような方に対して、抗がん剤を投与するよりも、キートルーダ といった免疫チェックポイント阻害薬を投与した方が、治療成績が良い可能性が指摘されています。

将来的には、マイクロサテライト不安定の胃がんの方には、抗がん剤治療ではなく、免疫チェックポイント阻害薬を中心にした治療になる可能性があります。

話は逸れますが、手術可能な段階のマイクロサテライト不安定(MSI)の胃がんに関しては、手術後に再発率を下げるための抗がん剤を行うと、逆に治療成績が悪くなる可能性も、MAGIC試験やCLASSIC試験にて指摘されました。

マイクロサテライト不安定(MSI)の胃がんは、抗がん剤との相性が悪いのかもしれません。 

大腸がん

マイクロサテライト不安定がある進行大腸癌の場合は、一次療法として、キートルーダを用いることが良いことが判明しています。

そして、そのような治療が、保険診療でも認めらました。

腎細胞がん

アメリカで、ハイリスクの腎臓がん、つまり、以下の条件の方に対して、キートルーダを用いることが承認されました。

pT2でグレード4または肉腫様腎細胞癌でN0、M0またはグレードに関わらずpT3でN0M0

グレードに関わらずpT4、pTステージとグレードに関わらずN+M0)

原発巣を切除と同時か1年以内に転移部位を完全に切除して病変が認められない

日本でも、ゆくゆくは承認されるでしょう。

肺がん

1、タグリッソという薬剤の効果がなくなったときには、Poziotinibという薬剤が有効かもしれないという報告がでています。

効果が期待ができるお薬です。

2、Tiragolumabという抗TIGITヒトモノクローナル抗体薬も、有望視されています。

ちなみに、 TIGIT は、がん免疫に関わる免疫チェックポイントタンパク質の1つです。

3、MET exon14遺伝子の異常の場合に、2020年8月にタブレクタ(カプマチニブ)という薬剤が認可されました。

タブレクタ以外には、MET exon14遺伝子の異常に対して、テポチニブはすでに認可されています。

4、KRAS遺伝子で、 G12Cという部位に変異がある肺がんに対して、KRAS G12C阻害薬であるsotorasibは有望視されています。

5、EGFRの遺伝子変異の中で、del19もしくはL858R変異がある肺がんに関しては、ファーストラインで「ラムシルマブとエルロチニブの併用療法」が有効です。

これは、アメリカでは、すでに承認されています。

6、肺がんの手術後の再発予防に、タグリッソという薬を飲むのも、非常に効果があるとされています。これも、しばらくしたら日本でも承認されると思われます。

さらにPD-L1陽性のII期からIIIA期の肺がんの手術後の再発予防に、アテゾリズマブを用いることが、アメリカで承認されました。日本でも、しばらくしたら承認されると思われます。

7、抗PD-L1抗体薬であるデュルバルマブと抗CTLA-4抗体であるtremelimumabの併用療法は、非小細胞がんに対して、効果が期待されるという結果がでています。これも期待できる治療法でしょう。

肝臓がん

「ニボルマブ+レンバチニブ」という薬剤は、効果が期待できるとされています。

胆道がん

1次治療として、抗PD-L1抗体薬であるデュルバルマブと標準的な化学療法の併用療法が、化学療法のみより有意に全生存期間を延長できることが判明しました。

この治療法も、1日も早く、日本で承認されればと思います。

手術後に、エスワンを内服すると、再発率をさげることができることも、判明しています。

乳がん

トリプルネガティブの乳がん

抗Trop2抗体薬(sacituzumabgovitecan-hziy)が有望視されています。

Trop2というタンパク質が、たくさん発現しているほど効果が期待できます。

また、「自己免疫賦活剤 ImprimePGG +免疫チェックポイント阻害薬」も有望視されています。

PDL1(CPSが10以上)という蛋白質がある乳がんに対して、キートルーダを併用した抗がん剤治療も認可される見込みが高いです。

ちなみに、すでに、テセントリクという免疫チェックポイント阻害薬を抗がん剤と併用して用いることは認可されています。

レンバチニブとキートルーダの併用療法も、高い効果が期待できるとされています。

ゆくゆくは認可されることでしょう。

そして、高リスクのトリプルネガティブ乳がんに対して、手術前に「アブラキサンと免疫チェックポイント阻害薬のアテゾリズマブ治療(もしくはキートルーダ)」を行い、手術後の維持療法として、アテゾリズマブ(もしくはキートルーダ)を用いることは有効という報告も、非常に期待できる内容です。

さらに、再発防止のために、新しい試みの結果が明らかになってきました。

「手術+従来の抗がん剤」で、がんを画像上指摘できない状態になったあとに、低用量のゼローダという抗がん剤を飲むことも、再発抑制に重要な役目を果たすということです。

そのことも、今後は、実際の診療に取り入れられる可能性が高いと推測しています。

高リスクのHER2陰性の乳がん

手術前に、「パクリタキセル」+「イミフェンジという免疫チェックポイント阻害薬」+「オラパリブ(分子標的薬)」を投与すると、がんが完全に消失確率が2倍になるという報告があります。

HER2陽性の乳がん

1、チロシンキナーザ阻害薬であるtucatinibが有望視されています。

脳転移にも効果があるようです。「ハーセプチン+ゼローダ」と併用して用いられる薬です。

2、Fc最適化抗HER2抗体margetuximabと化学療法の併用がアメリカで認められました。

今後は、日本でも用いられるようになることが期待されます。

ホルモン受容体陽性の乳がん

ホルモン受容体陽性の乳がんに対して、CDK4/6阻害薬であるイブランス (もしくはベージニオ)とアロマターゼ阻害薬の併用療法後に悪化した場合に、もしPIK3CA変異があれば、以下の薬剤が有効かもしれないとされています。

「PI3Kα阻害薬Alpelisibとフルベストラントの併用療法」

ホルモン受容体陽性で、HER3というタンパク質が発現している場合は、HER3-DXd(U3-1402、patritumab deruxtecan)という薬の効果が期待され、現在臨床試験が行われています。

子宮体がん

免疫チェックポイント阻害薬であるdostarlimabも非常に有望です。

この薬剤は、アメリカでは、プラチナ製剤を含むレジメンの前治療歴がある進行/再発子宮内膜がんでミスマッチ修復機構の欠損(dMMR)を有する成人患者を適応として、迅速承認されました。

臨床試験では、奏効率(ORR)は42.3%で、完全奏効が12.7%、部分奏効が29.6%という結果が出ています。 

子宮頸がん

免疫チェックポイント阻害薬であるcemiplimabにより、非常に良い治療効果が出ています。

さらに、先日、抗PD-1抗体薬であるペムブロリズマブを、進行または再発の子宮頸癌へ用いるための申請がなされました。この治療法はアメリカでは承認されています。ペムブロリズマブを抗がん剤(場合によってはアバスチン)と併用することが前提となります。

これも非常に有望な薬剤になります。

卵巣がん

ステージII~IV期の卵巣がん、卵管がん・腹膜原発がんに対して、パクリタキセル毎週静脈内投与とカルボプラチンの3週ごとの腹腔内投与は、手術後の残存病変の量に関わらず、非常によい治療成績になることが証明されました。

この治療法は、現在は、先進医療の扱いになっています。この治療法が、1日も早く保険診療になることを期待します。

オキサリプラチンによるしびれの予防薬

大腸がんや胃がんなどで、オキサリプラチンを含む化学療法を受けると、しびれの副作用がでることがあります。

そして、トロンボモデュリンα製剤という、すでに市場で使われている薬が、このしびれの予防に役立つ可能性があるとされており、臨床試験がはじまっています。

この臨床試験で、良い結果がでると、しびれに悩まされる人が減ることでしょう。この臨床試験(ART-123のフェーズ1試験)に期待したいです。

 

執筆医師:加藤隆佑


癌治療認定医
内科学会認定医
消化器病学会専門医・指導医
消化器内視鏡学会専門医
肝臓専門医・指導医
札幌禎心会病院がん化学療法センター長

(2021年9月までは、小樽協会病院消化器内科に所属)

消化器領域のがん(食道、胃、すい臓、肝臓、胆のう、大腸)を専門としつつ、がん全般についてアドバイスをしています。

緑書房より「抗がん剤治療を受けるときに読む本」「大腸がんと告知されたときに読む本」「がんと向き合うために大切なこと」を出版。

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