中性脂肪を減らす薬が、オプジーボの効果を増強する?
こんにちは。加藤隆佑と申します。
札幌の総合病院でがん治療を専門にしている医師です。
本日の本題に入らせてもらえればと思います。
免疫チェックポイント阻害薬であるオプジーボによる治療に、中性脂肪を減らす薬を併用しながら、がん治療をするクリニックを、見学する機会がありました。
そのときの見学から、中性脂肪を減らす薬が、オプジーボの効果を増強する可能性はあるのではと感じました。
ちなみに、中性脂肪を減らす薬とは、ベザフィブラートという薬です。
なぜ、ベザフィブラートとオプジーボの併用というアイディアがでたのかが気になったので、調べてみました。
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PD-1抗体の抗腫瘍効果は、ベザフィブラートなどによるミトコンドリアの活性化で増強する
「オプジーボに代表されるPD-1抗体薬(免疫チェックポイント阻害薬)の抗腫瘍効果は、ベザフィブラートなどによるミトコンドリアの活性化で増強する」という研究結果が、2017年に発表された結果です。
この研究は、オプジーボを開発した、京都大学 本庶佑氏の研究グループによりなされたものです。
この研究が行われた背景とは?
免疫チェックポイント阻害薬に反応しない、もしくは反応性が低い患者さんが、それなりにいます。そのような人を減らすために、この研究は行われました。
たとえば、悪性黒色種を例にとると、30%から50%の方は、治療効果がでません。
抗腫瘍効果が増強するメカニズムとは?
免疫チェックポイント阻害薬は、がんによる免疫監視状態を緩め、免疫細胞を活性化させてがん細胞を倒すという薬です。
そして、免疫細胞が活性化する際のエネルギー源の1つが、ミトコンドリアというところにあります。
このことはすでにわかっていたのですが、今回の研究で以下のことが判明しました。
・PGC-1αという分子を活性化すれば、ミトコンドリアが産生するエネルギー量を増加させることができる。
・すでに広く使用され、安全性も検証済みのベザフィブラートが、PGC-1αという分子を活性化できる。
・その結果、免疫細胞が活性化する際のエネルギー源の1つミトコンドリアを活性化され、免疫細胞がより活性化する。
以上のことが、マウスモデルを用いて、実証することができたのです。
人に対しても、同様のことは言えるのか?
本来であれば、ベザフィブラートを併用して免疫チェックポイント阻害薬による治療をする治験を組むべきです。
しかし、このような治験を組むことは、費用の問題もあり、簡単なようで難しいです。
そのような背景と、健康な人が、ベザフィブラートを内服することによる副作用は、ほとんどないといったことを考慮すれば、治験をしなくても、この治療を試みることは許容されるのかもしれません。
実際に、このことを取り入れているクリニックでの患者さんの実際を見させていただき、免疫チェックポイント阻害薬による治療に、ベザフィブラートを取り入れる価値はあるという印象をもっています。
免疫チェックポイント阻害薬による治療効果を上げるにはどうしたらよい?
免疫チェックポイント阻害薬は、プロトンポンプ阻害薬(タケキャブ、パリエットなど)という胃薬を飲んでいる方、抗生物質の服用歴のある方には、効果がでにくくなる傾向があるというデータもあります。
このことは、以下に記載しました、「非小細胞肺がんに対してアテゾリズマブという免疫チェックポイント阻害薬を用いて治療をした際の研究結果」で、示されました。
理由ですが、プロトンポンプ阻害薬という胃薬を飲んでいる方、抗生物質の服用歴は、腸内環境に悪影響を与えるからだと言われています。
腸内環境と、免疫状態は密接な関係があるのです。
この研究結果以外にも、腸内環境が抗がん薬や免疫療法の治療効果に関連しているという研究が、いくつもあります。
腸内環境をよりよくしておくことが、免疫チェックポイント阻害薬による治療をうける際に、重要なのでしょう。
今後は、免疫チェックポイント阻害薬の効果をあげる工夫を研究していく必要がある一方で、免疫チェックポイント阻害薬の効果を阻害する要因をできる限り取り除く必要もあるといえます。
参考文献1,
参考文献2、