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イブランスというホルモン受容体陽性の乳がんに用いられる薬の効果と副作用

 2021/01/19 乳がんコラム  

こんにちは。加藤隆佑です。がん治療を専門に総合病院で勤務しています。

2017年の12月に「ホルモン受容体陽性で、再発やステージ4の乳がん」に対して、イブランスというお薬が、認可されました。

一般名は、パルボシクリブです。

パルボシクリブ(イブランス)は、サイクリン依存性キナーゼであるCDK4およびCDK6を特異的に阻害することでがん細胞が増殖するのを制御する、内服の分子標的薬です。

イブランスの効果と、臨床試験での結果について

臨床試験では、非常に良い治療効果が、でていました。

がんを制御している期間を2倍近く伸ばしています。

その証拠として、ある臨床試験では、以下のような結果でした。

  • フェマーラといった内分泌療法の薬を単独で使用した場合は、14.5ヶ月がんを制御
  • 一方で、イブランスとフェマーラといった内分泌療法の薬を併用すると27.6ヶ月がんを制御

一方で、どの程度長く生きられるか?という視点でみてみると、イブランスを加えても、大きくは変わらないという結果です。

イブランスを併用するとがんを制御できる期間が長くなるのに、どの程度長く生きられるか?が変わらないのは、疑問に思われるかもしれません。

その理由の1つが、イブランスに耐性ができてしまったがん細胞は、それ以降の薬物療法に対して、効果が若干、出にくくなることがあるからとされています。

イブランスの服用方法と副作用

イブランスで、よくある服用方法は、2通りあります。

詳細は、以下の通りです。

・治療は28日を1サイクルとし、「イブランス125ミリグラム/日(3週間投与、1週間休薬)とフェソロデックス500mg/日(1サイクル目のみ14日ごと、その後28日ごと筋注)の併用」

・治療は28日を1サイクルとし、「イブランス125ミリグラム/日(3週間投与、1週間休薬)とフェマーラ(2.5ミリグラム/日)の併用」

閉経前の方に用いる時は、LH—RHアゴニスト剤であるリューブリンといった薬を併用します。

そして、よくある副作用は、血液毒性です。詳細は、以下の通りです。

  • 好中球減少:82%(重度のものは、66%)
  • 血小板減少:19%(重度のものは、3%)
  • 脱毛:16%
  • 口内炎:20%
  • 下痢:13%
  • 吐き気:25%(重度のものは、0.3%)
  • 疲労:33%

もし、イブランスの副作用で悩まされるならば、イブランスを飲む量を減らすとよいです。

1回75mg まで減らすことができます。

ちなみに、減量したとしても、治療成績が落ちることはないと、されています。

もし、イブランスの副作用で、悩まされ続けるならば、ベージニオといった他の治療の選択肢を検討すべきです。

また、標準的治療から少しはずれますが、ホルモン療法の効果が乏しくなったときには、以下の治療法も、効果があるケースが多いです。

「ホルモン療法+エンドキサン」

副作用も少ないです。イブランスよりも、体にかかる負担は少ないのです。

「ホルモン療法+エンドキサン」は、効果の期待できる治療法の1つです。

しかし、最近は用いられることが、非常に減ってしまいました。本来であれば、試みるべき価値の高い治療なのですが。私は、残念に思っています。

ホルモン受容体陽性の再発乳がんの治療方針

最後に、最近のホルモン受容体陽性の再発乳がんの治療方針だけ、まとめます。

1)手術後にホルモン療法をしなかった場合

1次治療

アロマターゼ阻害薬

もしくは、

「アロマターゼ阻害薬+イブランス(もしくはベージニオ)」

もしくは、

「フルベストラント(必要に応じてイブランスもしくはベージニオを併用)」

特に複数の内臓(3臓器以上)に転移している場合は、アロマターゼ阻害薬ではなく、「イブランスもしくはベージニオ」を併用した治療にした方がよいとされています。

最近は、「アロマターゼ阻害薬+イブランス(もしくはベージニオ)」を選択する医師が増えています。

2次治療

1次治療で、「アロマターゼ阻害薬+イブランス(もしくはベージニオ)」を用いた場合を前提にしますと、その治療が効かなくなった時は、次の治療として、以下を用います。

「フルベストラント(必要に応じてイブランスもしくはベージニオを併用)」「アフィニトール+エキセメスタン」など。

2)手術後にタモキシフェンによるホルモン療法を開始して、早期(2年以内)に再発した場合

1次治療

「アロマターゼ阻害薬+(イブランスもしくはベージニオ)」、もしくは「フルベストラント+(イブランスもしくはベージニオ)」

2次治療

1次治療で、「アロマターゼ阻害薬+イブランス(もしくはベージニオ)」を用いた場合を前提にしますと、その治療が効かなくなった時は、次の治療として、以下を用います。

「フルベストラント+(イブランスもしくはベージニオ)」「アフィニトール+エキセメスタン」など、これまでの治療経過を踏まえて判断

3)手術後にタモキシフェンによるホルモン療法をして、かなり時間を経過して再発した場合

1次治療

アロマターゼ阻害薬、もしくは、「アロマターゼ阻害薬+(イブランスもしくはベージニオ)」、もしくは「フルベストラント+(イブランスもしくはベージニオ)」

特に以下の場合は、アロマターゼ阻害薬ではなく、「イブランスもしくはベージニオ」を併用した治療にした方がよいとされています。

  • 複数の内臓(3臓器以上)に転移している場合
  • タモキシフェンを内服中に再発した場合

2次治療

1次治療で、「アロマターゼ阻害薬+イブランス(もしくはベージニオ)」を用いた場合を前提にしますと、その治療が効かなくなった時は、次の治療として、以下を用います。

「フルベストラント+(イブランスもしくはベージニオ)」「アフィニトール+エキセメスタン」など、これまでの治療経過を踏まえて判断

4)手術後にアナストロゾールもしくはレトロゾールによるホルモン療法を開始して、早期(2年以内)に再発した場合

1次治療

「フルベストラント+イブランス」

もしくは、

「アフィニトール+エキセメスタン」

もしくは、

「フルベストラント+ベージニオ」など

2次治療

これまでの治療経過を踏まえて判断

5)手術後にアナストロゾールもしくはレトロゾールによるホルモン療法をうけて、かなり時間を経過して再発した場合

1次治療

「アロマターゼ阻害薬+(イブランスもしくはベージニオ)」、もしくは「フルベストラント+(イブランスもしくはベージニオ)」

2次治療

これまでの治療経過を踏まえて判断

さて、再発やステージ4の乳がんで、加えるべき治療は、薬物療法だけではありません。

こちらのことも、知っておいてほしいです。

執筆医師:加藤隆佑


癌治療認定医
内科学会認定医
消化器病学会専門医・指導医
消化器内視鏡学会専門医
肝臓専門医・指導医
札幌禎心会病院がん化学療法センター長

(2021年9月までは、小樽協会病院消化器内科に所属)

消化器領域のがん(食道、胃、すい臓、肝臓、胆のう、大腸)を専門としつつ、がん全般についてアドバイスをしています。

緑書房より「抗がん剤治療を受けるときに読む本」「大腸がんと告知されたときに読む本」「がんと向き合うために大切なこと」を出版。

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