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抗がん剤治療ができなくなり、緩和ケアといわれたらどうする?在宅緩和ケアの実際を医師が解説

 2023/03/04 緩和ケア関連コラム  

こんにちは。がん治療を専門に総合病院で勤務している加藤隆佑です。

抗がん剤治療を受けているがんの患者さんが、緩和ケアしかないと言われたら、もう終わりと思われる方もいらっしゃいますが、そうではありません。

緩和ケアは、毎日を苦痛なく、楽しく過ごせるようにする医療です。

苦痛なく、楽しく過ごせることができるほど、もっと長く生きることができるようになるとも言えます。

そして、本日は、在宅での緩和医療を専門にされている医師である児玉佳之先生に、在宅での緩和医療の記事を監修していただきました。

児玉佳之先生のクリニックでは、在宅での緩和医療だけでなく、在宅での栄養サポートにも大変力を入れているクリニックです。

本日は、緩和ケアとは何か?在宅緩和ケアの実際についてご説明いたします。

緩和ケアは、がん治療が始まった段階からスタート

緩和ケアは、抗がん剤・手術ができなくなってから、始まるというイメージを持たれている方が多いですが、そうではありません。

例えば、「痛みがあるから痛み止めを処方してもらいながら、抗がん剤治療を受ける。」ということも、緩和ケアを受けながら、がん治療を受けていると表現することができます。

ただ、抗がん剤治療、手術といったような積極的な治療が難しい時には、緩和ケアに専念するということになります。

そのような時に、在宅緩和ケアという選択肢が生まれます。

緩和ケアを中心に行う段階になったら、どうしたらよいか?

色々なパターンがあります。

私の勤務しているような規模の大きな病院の患者様の場合ですと、患者様の希望を聞きながら、選択肢を提示します。

1、今後はホスピスを希望をしている場合

私の病院からホスピスのある病院に紹介状を書き、ホスピスのある緩和ケア外来を通院して経過を見てもらうことになります。

その場合は、私の病院には通院しません。

ただ、特殊な検査・治療が必要になった場合には、私の病院を受診していただくことはあります。

2、在宅緩和ケアを受けたいけど、病院に通院する体力がある状態

通院中の病院に定期的にかかりながら、万が一、病院に通院することが困難になった時に、在宅緩和ケアのクリニックのドクターに訪問診療をお願いすることになります。

なぜならば、訪問診療の対象患者様は「疾病、傷病のために通院による療養が困難な患者様」、つまり、お一人での通院が困難な患者様だからです。

3、在宅緩和ケアを受けることを希望し、通院する体力がない状態

在宅緩和ケアのクリニックのドクターに訪問診療を依頼します。

訪問診療を受ける場合は、現在通院している病院はどうなる?

在宅緩和ケアを行うクリニックで、現在の病院の診療を全面的に引き継ぐことが多いです。

つまり、現在、通院している病院には通院しないことになります。

ただし、専門性の高い病気を持っていたり、入院の頻度が高い方は、病院の医師と連携しながら訪問診療を受ける方もいます。

そして、訪問診療を開始する際に、何かあったらいつでも入院できるように後方支援病院を決めておきます。それまで通院していた病院や緩和ケア病棟のある病院に依頼することが多いです。

1つ例を出しますと、在宅緩和ケアの医師が訪問しつつ、3週に1回くらい、以前に通院していた病院に入院して、腹水治療(CART療法)を受ける方もいます。

在宅訪問緩和ケアで可能な医師による治療

1、点滴、注射

食事がとれないときも、必要があれば、点滴をしてもらうことができます。

肺炎になったときも、抗生剤の点滴をしてもらうこともできます。

2、医療用麻薬(モルヒネなど)や様々な薬剤を用いて、痛みなどの苦痛の緩和

自宅にいながら、痛みをとってもらえます。

お薬を処方した場合は、近隣の調剤薬局に薬をもらいにいくことになります。取りに行けないときには、配達をしてもらうことも可能です。

在宅で可能な検査

一般的な外来で実施される検査はできます。たとえば、血液検査、尿検査、超音波検査、心電図です。

採血をすることで、体調を整えるために、どうしたらよいかについてのヒントがもらえます。

超音波検査をしてもらえれば、お腹の状態などをみてもらえます。お腹の症状で困っているときの解決策のヒントになります。

ただし、持ち運びができる超音波検査の機械をもっていないクリニックの場合は、超音波検査をしてもらうことは難しいです。

在宅緩和ケアになったら、がんの状態がどうなったかを確認するための定期的なCT検査はしないのですか?

CT検査をしないと治療方針を決められない時には、CT検査を、以前にかかっていた病院などにお願いすることになります。

もし、CT検査をしなくても、治療方針が決められるということであれば、あえて、CT検査はしないことになります。

例えば、「訪問診療先のがん患者さんの背中の痛みが、なかなか取れず、放射線治療をしてもらった方が良いかどうかを判断しないといけない」と医師が考えたときには、CT検査をしてもらうことになります。

在宅緩和ケアを受けている方に対し、訪問看護師ができること

1、病状の観察、口腔ケア、床ずれの予防と管理、リンパ浮腫のケア

より快適な生活のサポートになります。

2、点滴の管理

点滴の管理はご家族と看護師が行います。点滴交換はご家族でもできるため、看護師から指導を受け実施します。

針や輸液ルートの交換は看護師が実施します。これらは医師の指示に基づいて実行します。

3、痛みや呼吸困難などの症状コントロールに対する助言

4、患者さんやご家族への精神的支援やアドバイス

看護師に話を聞いてもらうだけでも、気持ちが整理されて、不安が軽減することが期待できます。

より良い自宅の環境作りのためにできること

介護保険を利用して、介護サービスをうまく利用することが在宅療養のコツです。そうすることで、以下のようなことが可能となります。

1、電動ベッドといった福祉用具を借りられる。

2、訪問リハビリサービスを利用して、足腰の筋力を落とさないようにすること

どのくらいの頻度で訪問しますか?

回数は、患者さんの置かれている状況によって変わります。

例えば、児玉先生のクリニックでは、訪問診療を週1回、訪問看護を週3回からはじめることが多いです。

診療費について

交通費は診療報酬上、自費扱いで「患家の負担」となっています。それぞれのクリニックで違っており、確認が必要です。クリニックからの距離で費用を決めているクリニックが多いです。

急に体調が悪くなって、在宅で見るのが難しいとご家族が思った時はどうする?

訪問診療のクリニックが24時間体制で対応します。入院が必要と考えた場合には後方支援先の病院と入院調整をします。

ただ、脳卒中、心筋梗塞など急を要する病気が疑われる場合は、直ちに救急車の要請をお願いすることもあります。

訪問診療を希望されるときの手順は?

以下のどちらかの手続きが必要になります。

・通院している病院に訪問診療を受けたい旨を伝える。そして、病院から訪問診療を受けられるように調整してもらう。

・自分から訪問診療をうけたい病院・クリニックに問い合わせをして、大丈夫であれば、その旨を主治医に伝える。

編集後記

最後に、zoomで私と児玉先生で対談をしております。その内容も、ご紹介します。

加藤医師)児玉先生、記事を監修していただきありがとうございました。在宅緩和ケアについて、詳しくわからない方も多いですので、この記事で、少しでもお役に立てればと思います。

ところで、在宅緩和ケアを受けるときには、がんの緩和ケアのトレーニングをしっかりと受けている医師がいるクリニックを選ぶことが大事だと思いますが、いかがでしょうか?

児玉医師)そうですね。

がんの緩和医療では様々ながんに対応する必要があったり、痛み、呼吸困難感、倦怠感などの様々な苦痛症状の緩和が必要になるため、しっかりとトレーニングを受けた医師、緩和ケアでの経験が長い医師に依頼するのが良いと、私も思います。

ただ、患者さんは、どこのクリニックにそのような医師がいるかわからないはずです。

そこで、病院の患者支援センターで、どこのクリニックが良いかに関しての情報(がんを診療しているか、緩和ケアに対応しているかなど)を得たり、自分でクリニックのホームページなどから情報を得て、訪問診療を受けるクリニックを決めるのが良いです。

もし、ご自身で訪問診療をしてくれる医師を探す場合には、私のクリニックのように、緩和医療専門医を持っている医師が在籍しているクリニックかどうかで判断するのも良いですよね。

加藤医師)私の病院でも、そのような形で、患者さんに提案しています。

ところで、児玉先生のところでは、在宅栄養管理に非常に力を入れていますよね。

在宅でも、元気に過ごすためには、どうやって栄養を取るかはとても大事なので、先生のクリニックのような取り組みをされているところが、増えると良いと思います。

児玉先生)そのように言っていただけて光栄です。

在宅での栄養管理について説明します。

がんが進行すると食欲低下を認めるようになったり(がん悪液質の影響)、また嚥下障害(嚥下に関わる筋肉の低下や口腔乾燥症、口腔カンジダ症などが要因)のために食べられなくなったりします。

そのような場合に医師と看護師で食べられない原因を考え対応します。

特に摂食嚥下障害の知識をフルに活かしたケアや指導を行うことで、「できるだけ誤嚥性肺炎を起こさず口から食べること」が実現します。

輸液での栄養管理も実施していますが、この時期に大切なのは、なるべく浮腫、胸水、腹水を悪化させないように輸液量を設定することになります。

このような感じで栄養管理をしっかりして、なるべく苦痛なく笑顔でご自宅で過ごしてもらえるようにしています。

加藤医師)在宅栄養管理について教えていただきありがとうございます。

児玉先生のクリニックは、北海道札幌市の東区・北区全域、中央区・西区・白石区・豊平区の一部や石狩市の一部など、クリニックより車両移動で概ね30分程度の範囲の方の診療をしてくださっています。

もし、この地域の方で訪問診療を考えている方は、こちらよりお問い合わせをしてくださいね。

監修医師:児玉 佳之

こだま在宅内科緩和ケアクリニック院長


日本緩和医療学会 緩和医療専門医

日本病態栄養学会 病態栄養専門医・指導医

PEG・在宅医療学会 専門胃瘻管理者・専門胃瘻造設者・認定胃瘻教育者など

日本臨床栄養代謝学会 認定医・指導医

日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士

ICD(感染症専門医師)

日本褥瘡学会 在宅褥瘡予防・管理師(医師)

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