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胃がんの腹腔内化学療法の治療成績を医師が解説

 2021/01/21 胃がん  

こんにちは。加藤隆佑です。がん治療を専門に総合病院で勤務しています。

胃がんが腹膜に転移している時の治療法の1つに、腹腔内化学療法は有効な治療方法の1つです。

そして、本日は、腹腔内化学療法に長くたずさわっていらっしゃる医師である国家公務員共済組合連合会 斗南病院の化学療法センター長でいらっしゃります辻靖先生に、胃がんの腹腔内化学療法の記事を監修していただきました。

その治療が、具体的にどのような治療なのか?どの程度の治療効果があるかについて、解説します。

腹腔内化学療法は、どのような治療法か?

腹腔内に、直接、抗がん剤を散布することにより、腹膜に転移しているがんを、制御することを試みる治療法です。

抗がん剤をお腹に中に注入するために、皮下にポートを埋め込む必要があります。

そうすることにより、お腹の中に、容易に抗がん剤を投与することができるようになります。

胃がん、膵臓がん、卵巣がんで行われることがあります。

腹腔内にポートを留置するための手術は、腹水がある場合は局所麻酔でもできますが、腹水がない場合は、腹腔鏡を用いてポートを留置することになります。

腹腔内化学療法のメリットは?

全身への抗がん剤投与と異なり、腹腔内への抗がん剤投与は局所的に抗がん剤の濃度を高く保つことができ、また全身の副作用を抑えることができます。 

しかし、実際は、全身への抗がん剤投与と並行して、腹腔内への抗がん剤投与が行われることが多いです。

例えば、以下のようなスケジュールでやられます。

 

21日を1サイクルとする。

1日目、8日目にパクリタキセルという抗がん剤を、腹腔内と静脈内に投与

1日目から14日目まで、連日でエスワンという抗がん剤の内服

腹腔内に投与するパクリタキセルの量は、生理食塩水500ccに溶かして、体表面積あたり20から30ミリグラム

 

治療効果判定は?

ポートから腹水を採取して、がん細胞を確認できなくなったら、腹腔鏡を用いて、腹膜播種の状態を確認します。

その結果、腹膜播種が非常に改善して、さらに肝臓といった臓器に転移がなければ、胃のがんの部位を切除することを試みるケースが多いです。

腹腔内化学療法の副作用は?

腹腔内に投与する薬剤が、パクリタキセルの場合は、ほとんどの方は、副作用がでません。

なぜならば、パクリタキセルは腹腔内から血液の中に移動しないからです。

ただ、ポートが腹腔内に入っているので、ポートが詰まったり、ポート感染が起きることはあります。そのようなことが起きたらポートを抜去して入れ直さないといけません。

辻先生の御施設における腹腔ポートの合併症は、以下の通りでした。

「166例中,13例(7.8%)に合併症が起こり、その内、感染を5例(3%)で認め,4例で再造設した.」

腹腔ポートは1例あたり年間35-40回使用するので,ポートに由来する合併症の頻度は低いと考えられます。

腹腔内化学療法の治療実績は?

辻先生の御施設の治療成績を、学会に発表された結果を用いて提示いたします。

胃がんと診断されて、腹膜にも転移していて、ステージ4もしくは再発の診断となった166例の患者さんに、腹腔内化学療法を併用した抗がん剤治療を受けていただく。

そのうちの120例は、転移している場所は、腹膜のみであり、肝臓・肺といった臓器への転移のない方であった。

・120例のうち、原発巣を手術で切除されていない73例の治療成績の詳細

生存期間中央値は23.4ヶ月

73例のうち41例(56%)で播種が制御され,完治を目指した手術に至る。

(補足:手術に至る場合は、5ヶ月くらいの治療を受けて、手術になるケースが多く、手術後も、しばらくは、腹腔内にパクリタキセルを投与する治療を続けます。)

・長期生存を目指した手術を受けた41例の治療成績の詳細

手術を受けて、がんが再発しない期間の中央値は20.5ヶ月、生存期間中央値は38.3ヶ月と極めて良好であった。

さらに、手術を受けて41例のうち、15例は現在も、再発していない状態であり、その中の一部の方は抗がん剤もオフになっている状態。

・120例のうち、原発巣を手術で切除された(胃の切除を受けた)後に腹膜播種再発し腹腔内化学療法を行なった47例の治療成績の詳細

生存期間中央値15.0ヶ月

この治療成績は、現在の標準的な治療を用いても、なかなかなし得ることができない治療結果です。

腹膜播種を制御すれば、胃がんの根治的な手術を目指すことができるときには、腹腔内化学療法を併用する意義は非常にあると言えます。

それ以外にも、大きな臨床試験が行われています。

その臨床試験では、183名の患者さんが登録されて、腹腔内化学療法+標準治療と、標準治療単独の治療成績を比較しました。

その結果なのですが、主要評価項目としての全生存期間では有意差を認めませんでした。

しかし、3年生存率は、標準治療単独よりも、3から4倍高いという結果でした。

さらに、安全性については同程度で、腹水の制御は腹腔内投与群の方が、優れている結果であった。

つまり、安全性は問題なく、腹膜以外の場所への転移がない胃がんの方(つまり、腹膜播種しかない胃がんの方)にとっては、腹腔内化学療法の恩恵は、非常にあると解釈できます。

肝臓に転移があって、腹膜にも転移があるときの、腹腔内化学療法の意義は?

このようなケースにおいては、腹腔内化学療法を用いても、手術ができる状態にまで持っていける可能性は高いとは言えません。

ただ、腹腔内化学療法により腹膜播種をコントロールすることで、腹膜播種に伴う症状に悩まされる可能性を減らすことはできます。

腹膜播種による症状とは、腹水が増えることによる症状や、腹膜播種による腸閉塞・疼痛といった症状です。

腹腔内にパクリタキセルという抗がん剤を投与することによる副作用はほとんどないので、そのような意味合いでも、メリットがそれなりにある治療と言えるかもしれません。

ただ、基本的には、腹膜以外の場所への転移がない胃がんの方(つまり、腹膜播種しかない胃がんの方)が、もっとも恩恵を受けられる治療法となります。

パクリタキセル以外の抗がん剤を投与することの意義はありますか?

パクリタキセル以外にも、腹腔内に投与することができる抗がん剤はあります。

シスプラチン、ドセタキセル 、カルボプラチンといった薬剤です。

ただ、これらの薬剤は、腹腔内に投与しても、それなりの頻度で副作用が出る薬剤になりますので、慎重に投与することが求められます。

編集後記

最後に、zoomで私と辻先生で対談をしております。その内容も、ご紹介します。

加藤医師)先日は、見学の機会をくださりありがとうございました。

辻先生の御施設の患者様を拝見しましたが、あらためて、腹腔内化学療法の効果はすごいと思いました。

本来であれば、腹膜播種のある胃がんの場合ですと、根治的な治療は非常に難しいというのが一般論となりますが、腹腔内化学療法をすることで、根治にいたった方もいるということには、すごいことです。

辻医師)パクリタキセルという薬剤を腹腔内化学で使う限りは、副作用もほとんどありませんので、リスクはほとんどないといってもよいでしょう。

そして、一部の方には、劇的な効果が期待されるわけですから、試みる価値が高いです。

注意点として、腹腔内化学療法で用いることができる薬剤は、ほかにもありますが、それらの薬剤は血液中にも入ってしまうので、私はパクリタキセルしか使わなくなりました。

加藤医師)そうだったのですね。

今回は、胃がんの話ではありますが、膵臓がんでも効果があるのですね。

先日も、辻先生より、膵臓がんで腹膜播種のある方が、腹腔内化学療法をして手術ができるようになり、その後、5年間再発しないでいらっしゃるという方がいることも教えていただきました。

すごいの一言につきます。

辻医師)ありがとうございます。このような結果になってとても嬉しく思っています。

ただ、腹腔内化学療法は、非常に有効な治療法の1つですが、広くは普及はしていません。

保険診療にも、なってはいません。しかし、試みる価値が高い治療でも、あります。

もっと広がってほしいと思います。

加藤医師)そのような方がもっとふえればと思い、私の病院でも、この治療をさせていただく方がいて、辻先生から教えていただいたことを守りながら、無事、行うことができました。

私も、腹膜播種で困っている方のお役にたてるような治療を、辻先生に教わったことを活かしながら、やっていきたいです。

 

 

文献:Phase III trial of standard-dose intravenous cisplatin plus paclitaxel versus moderately high-dose carboplatin followed by intravenous paclitaxel and intraperitoneal cisplatin in small-volume stage III ovarian carcinoma: an intergroup study of the Gynecologic Oncology Group, Southwestern Oncology Group, and Eastern Cooperative Oncology Group

 

監修医師:辻 靖 
斗南病院 化学療法センター長

札幌医科大学卒業
日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医
日本内科学会認定内科専門医
日本消化器病学会指導医
日本消化器内視鏡学会指導医
日本血液学会専門医
医学博士

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