大腸がんにおける抗EGFR薬の投与を再検討する意義
こんにちは。がん治療を専門に総合病院で勤務医をしています加藤隆佑と申します。
がんとの戦いは絶えず進化しており、大腸がんの治療においても新しい希望が見えています。
大腸がん患者さんの中には、初診時にRAS遺伝子の変異があるため、アービタックスやベクティビックスなどの抗EGFR薬を使用できない方がいます。
しかし、治療を受けている間に、RAS遺伝子変異が消失することが約20%から30%の患者さんで報告されています。
そのような背景もあり、あるタイミングで、変異が消失したかどうかを知るために、オンコビーム RAS CRCキットによる採血検査が、推奨されます。
この検査は簡便で、RAS遺伝子の現状を把握することができ、変異が見られなければ抗EGFR薬の使用が可能になりるのです。
このことに関連する報告を1つお示しします。
2023年の消化器病学会における東京大学医院の消化器外科の野村幸世先生の発表の内容の一部に、以下のような内容も含まれていました。
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8例のうち、3例は初回のRAS/BRAF検査で変異あり。そのうちの2例は、オンコビーム RAS CRCキットによるRAS検査により、RAS/BRAF変異なしになっていた。
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治療を受けている間に、RAS遺伝子変異が消失することがあり、その結果、抗EGFR薬が使えるようになることがあるのは、心の片隅に置いておく価値はあります。
たとえ、過去の手術検体を用いた遺伝子パネル検査を受けて、RAS遺伝子の変異があるという結果になった方でも、オンコビーム RAS CRCキットによる検査が推奨されることになります。
なぜならば、過去の手術検体を用いた遺伝子パネル検査は、過去のRAS遺伝子の状態を反映しているにすぎず、一方で、採血結果ならば、今現在のRAS遺伝子の状態を知ることができるからです。
余談ですが、私が担当している患者さんの場合におきましても、初回のRAS/BRAF検査で変異があったのちに、しばらく抗がん剤治療を受けたのちに、オンコビーム RAS CRCキットによるRAS検査により、RAS/BRAF変異なしになっていた方も経験しています。
その方は、幸いにも、抗EGFR薬が非常に良く効きました。
初診時にRAS遺伝子の変異がある方にとって、オンコビーム RAS CRCキットによる検査は、新たな治療選択肢の可能性を開くものです。
抗EGFRの再投与の可能性について
PURSUIT試験において、以下の条件を満たすことが、再投与が有効になる可能性が高くなるという結論づけています。
・前治療の抗EGFR抗体投与で増悪した直後のRAS変異がないこと
・最初の抗EGFR抗体投与から365日以上経過していること
このような条件を満たしている場合には、再投与を検討する価値が高いと言えます。
オンコビーム RAS CRCキットによる検査には注意点
肺転移が唯一の症状の場合や、抗がん剤が非常に効いている時期に検査を行うと、正確な結果が得られない可能性があります。
最適な検査タイミングは、がんが悪化している時です。
これらの知見は、大腸がん治療の新しい道を切り開くものです。
治療における新たな可能性を探る中で、医師と密に相談し、適切な時期に適切な検査を受けることが、治療成功への鍵となるでしょう。