こんにちは。加藤隆佑です。がん治療を専門に総合病院で勤務しています。
2017年の12月に「ホルモン受容体陽性で、再発やステージ4の乳がん」に対して、イブランスというお薬が、認可されました。
一般名は、パルボシクリブです。
パルボシクリブ(イブランス)は、サイクリン依存性キナーゼであるCDK4およびCDK6を特異的に阻害することでがん細胞が増殖するのを制御する、内服の分子標的薬です。
イブランスの効果と、臨床試験での結果について
臨床試験では、非常に良い治療効果が、でていました。
がんを制御している期間を2倍近く伸ばしています。
その証拠として、ある臨床試験では、以下のような結果でした。
- フェマーラといった内分泌療法の薬を単独で使用した場合は、14.5ヶ月がんを制御
- 一方で、イブランスとフェマーラといった内分泌療法の薬を併用すると27.6ヶ月がんを制御
一方で、どの程度長く生きられるか?という視点でみてみると、イブランスを加えても、大きくは変わらないという結果です。
イブランスを併用するとがんを制御できる期間が長くなるのに、どの程度長く生きられるか?が変わらないのは、疑問に思われるかもしれません。
その理由の1つが、イブランスに耐性ができてしまったがん細胞は、それ以降の薬物療法に対して、効果が若干、出にくくなることがあるからとされています。
イブランスの服用方法と副作用
イブランスで、よくある服用方法は、2通りあります。
詳細は、以下の通りです。
・治療は28日を1サイクルとし、「イブランス125ミリグラム/日(3週間投与、1週間休薬)とフェソロデックス500mg/日(1サイクル目のみ14日ごと、その後28日ごと筋注)の併用」
・治療は28日を1サイクルとし、「イブランス125ミリグラム/日(3週間投与、1週間休薬)とフェマーラ(2.5ミリグラム/日)の併用」
閉経前の方に用いる時は、LH—RHアゴニスト剤であるリューブリンといった薬を併用します。
そして、よくある副作用は、血液毒性です。詳細は、以下の通りです。
- 好中球減少:82%(重度のものは、66%)
- 血小板減少:19%(重度のものは、3%)
- 脱毛:16%
- 口内炎:20%
- 下痢:13%
- 吐き気:25%(重度のものは、0.3%)
- 疲労:33%
もし、イブランスの副作用で悩まされるならば、イブランスを飲む量を減らすとよいです。
1回75mg まで減らすことができます。
ちなみに、減量したとしても、治療成績が落ちることはないと、されています。
もし、イブランスの副作用で、悩まされ続けるならば、ベージニオといった他の治療の選択肢を検討すべきです。
また、標準的治療から少しはずれますが、ホルモン療法の効果が乏しくなったときには、以下の治療法も、効果があるケースが多いです。
「ホルモン療法+エンドキサン」
副作用も少ないです。イブランスよりも、体にかかる負担は少ないのです。
「ホルモン療法+エンドキサン」は、効果の期待できる治療法の1つです。
しかし、最近は用いられることが、非常に減ってしまいました。本来であれば、試みるべき価値の高い治療なのですが。私は、残念に思っています。
ホルモン受容体陽性の再発乳がんの治療方針
最後に、最近のホルモン受容体陽性の再発乳がんの治療方針だけ、まとめます。
1)手術後にホルモン療法をしなかった場合
1次治療
アロマターゼ阻害薬
もしくは、
「アロマターゼ阻害薬+イブランス(もしくはベージニオ)」
もしくは、
「フルベストラント(必要に応じてイブランスもしくはベージニオを併用)」
特に複数の内臓(3臓器以上)に転移している場合は、アロマターゼ阻害薬ではなく、「イブランスもしくはベージニオ」を併用した治療にした方がよいとされています。
最近は、「アロマターゼ阻害薬+イブランス(もしくはベージニオ)」を選択する医師が増えています。
2次治療
1次治療で、「アロマターゼ阻害薬+イブランス(もしくはベージニオ)」を用いた場合を前提にしますと、その治療が効かなくなった時は、次の治療として、以下を用います。
「フルベストラント(必要に応じてイブランスもしくはベージニオを併用)」「アフィニトール+エキセメスタン」など。
2)手術後にタモキシフェンによるホルモン療法を開始して、早期(2年以内)に再発した場合
1次治療
「アロマターゼ阻害薬+(イブランスもしくはベージニオ)」、もしくは「フルベストラント+(イブランスもしくはベージニオ)」
2次治療
1次治療で、「アロマターゼ阻害薬+イブランス(もしくはベージニオ)」を用いた場合を前提にしますと、その治療が効かなくなった時は、次の治療として、以下を用います。
「フルベストラント+(イブランスもしくはベージニオ)」「アフィニトール+エキセメスタン」など、これまでの治療経過を踏まえて判断
3)手術後にタモキシフェンによるホルモン療法をして、かなり時間を経過して再発した場合
1次治療
アロマターゼ阻害薬、もしくは、「アロマターゼ阻害薬+(イブランスもしくはベージニオ)」、もしくは「フルベストラント+(イブランスもしくはベージニオ)」
特に以下の場合は、アロマターゼ阻害薬ではなく、「イブランスもしくはベージニオ」を併用した治療にした方がよいとされています。
- 複数の内臓(3臓器以上)に転移している場合
- タモキシフェンを内服中に再発した場合
2次治療
1次治療で、「アロマターゼ阻害薬+イブランス(もしくはベージニオ)」を用いた場合を前提にしますと、その治療が効かなくなった時は、次の治療として、以下を用います。
「フルベストラント+(イブランスもしくはベージニオ)」「アフィニトール+エキセメスタン」など、これまでの治療経過を踏まえて判断
4)手術後にアナストロゾールもしくはレトロゾールによるホルモン療法を開始して、早期(2年以内)に再発した場合
1次治療
「フルベストラント+イブランス」
もしくは、
「アフィニトール+エキセメスタン」
もしくは、
「フルベストラント+ベージニオ」など
2次治療
これまでの治療経過を踏まえて判断
5)手術後にアナストロゾールもしくはレトロゾールによるホルモン療法をうけて、かなり時間を経過して再発した場合
1次治療
「アロマターゼ阻害薬+(イブランスもしくはベージニオ)」、もしくは「フルベストラント+(イブランスもしくはベージニオ)」
2次治療
これまでの治療経過を踏まえて判断
さて、再発やステージ4の乳がんで、加えるべき治療は、薬物療法だけではありません。