こんにちは。がん治療専門医の加藤隆佑です。
診察の中でよく患者さんから、「先生が出してくれる薬で、飲み合わせは大丈夫ですか?」とご質問をいただきます。
実際のところ、医師も薬剤師も常に薬の相互作用(飲み合わせ)を考えながら処方をしています。
ただ、薬の数が増えれば増えるほど「相互作用が全くない」という状況は少なくなります。
・特に重要なのは「CYP3A4」
薬の体の中で分解される多くは「肝臓の酵素」によって行われます。
その中でも中心的な役割を果たしているのが CYP3A4(シップスリーエーフォー)という酵素です。
•全医薬品の約半分がCYP3A4で代謝される
•この酵素を強く「抑える」薬や食品がある
•逆に「強める」ものもある
たとえば、グレープフルーツジュースはCYP3A4を阻害する代表的な食品です。
これを知らずに飲むと、薬の血中濃度が急に高まり、副作用が強く出てしまうことがあります。
・実際に注意するケース
•抗がん剤や免疫抑制剤など「血中濃度が重要なお薬」
•睡眠薬、抗不整脈薬、抗てんかん薬など
•高血圧やコレステロールのお薬でも該当することがあります
これらはCYP3A4を介して分解されるため、飲み合わせ次第で「効きすぎる」「効かなくなる」というリスクが出てきます。
すべての薬の組み合わせを患者さんが覚える必要はありません。
ただし、「CYP3A4」というキーワードが特に重要であることだけ、頭の片隅に置いていただければ安心です。
CYP3A4に影響する代表的なもの一覧
分解を阻害(=薬の作用が強く出やすくなる)
•食品・飲料
グレープフルーツジュース
ライム、セビルオレンジ(マーマレードに含まれることあり)
ザクロジュース
スターフルーツ
•サプリ・生薬
ゴールドシール(Goldenseal)
イチョウ葉(Ginkgo biloba)
エキナセア(Echinacea)
マルベリー(桑の実系サプリ)
•薬(代表例)
抗真菌薬(イトラコナゾール、ケトコナゾール)
抗生物質(クラリスロマイシン、エリスロマイシン)
一部の抗HIV薬(リトナビルなど)
分解を誘導(=薬の作用が弱くなる)
•サプリ・生薬
セントジョーンズワート(うつ向けハーブ)
•薬(代表例)
抗けいれん薬(フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール)
結核治療薬(リファンピシン、リファブチン)
一部の抗HIV薬(エファビレンツなど)
特に、上記のものは注意しないといけません。
ちなみに、私がよく用いる漢方は、相互作用という視点で問題となるものはありません。
次に、がん治療や予防において新しく承認されたお薬をご紹介します。
次に9月の新しい薬をご紹介いたします。
・ステージ4の乳がん〜エンハーツ
エンハーツ、これまで使える方が限られていたお薬ですが、少しずつ対象が広がってきています。
以前は、HER2(ハーツー)というタンパクがしっかり検出される方でないと使えませんでした。
ところが、約2年前から「0に近いとダメなのですが、少しHER2が検出されれば使える」ように変わりました。
そして今回、さらに進化して――
0に近いくらいのわずかのHER2が検出される場合でも、ホルモン受容体が陽性の乳がんの方であれば、使えるようになったのです。
これまで「HER2が使えないから適応外」と言われていた方も、新しい選択肢が広がっているかもしれません。
ぜひ主治医の先生に相談してみてください。
・がん予防のワクチン「シルガード9」
シルガード9(9価HPVワクチン)は、子宮頸がんや尖圭コンジローマなどを
予防するワクチンです。
今回新しく
•男性にも接種できるようになりました
•女性については「肛門がん」の予防効果も加わりました
世界中で承認が進んでおり、日本でもさらに広く予防の道が開かれています。
「かかってから治す」だけではなく、「予防する力」を手にできるのはとても心強いことですね。
・尿路上皮がんに「バルバーサ」
膀胱などの尿路にできるがんの中には、FGFR遺伝子の異常があるタイプが存在します。
バルバーサ(エルダフィチニブ)は、この遺伝子異常を持つ患者さんに使える新しい内服薬です。
がんの遺伝子を調べることで、その方に合った治療を選べるようになって
きています。
「あなたのがんに合わせた治療」が進んでいる証拠ともいえるお薬です。
今後も最新の情報をお伝えしてまいりますね。