こんにちは。加藤隆佑です。
がん治療を専門に、札幌の総合病院で勤務医をしています。
本日は、陽子線治療、もしくは重粒子線治療に代表される粒子線治療について、解説したいと思います。
粒子線治療は、通常の放射線治療よりも効果がある?
陽子線治療、もしくは重粒子線治療は、粒子線治療の1つです。
そして、陽子線治療・重粒子線治療と聞くと、通常の放射線治療よりも、効果があると思われる方がいるかもしれません。
しかし、必ずしも、そうではありません。
粒子線治療で治療をしても、通常の放射線治療で治療をしても、治療効果は全く変わらないこともあります。
一方で、陽子線治療や重粒子線治療の方が、治療成績が良くなるという局面があることも事実です。
したがって、粒子線治療で治療を受けられるのであれば、それに越したことはないとも言えます。
ただ、粒子線治療ではなく、通常の放射線治療になったとしても、必ずしも悲観はしなくても良いことは、知っておいて欲しいです。
陽子線治療で治療をしても、通常の放射線治療で、治療をしても、治療効果は全く変わらないことも多々あるからです。
保険診療で粒子線治療を受けることができる?
最近は、保険診療で、陽子線治療や重粒子線治療を受けることができるがんが、増えています。
例えば、先日までは、すい臓がんの粒子線治療は、先進医療扱いでしたが、2022年より、保険診療で、粒子線治療を受けられるようになりました。
保険診療内で、粒子線治療を受ける機会は、増えてきているのです。
陽子線治療、重粒子線治療とは?
従来の放射線治療よりも、正常な組織に放射線が当たらないようにして、照射することができることが特徴です。
この特徴が、従来の放射線治療よりも治療効果をあげることに役立ちます。
例えば、従来の放射線治療だと、病巣の近くに小腸や胃があるために、高線量の放射線を照射できないことがあります。
その場合は、照射量を減らした治療にしないといけないので、その結果、がんを制御できる確率が減ります。
一方で、粒子線治療だと、正常な組織に放射線を当たらないようにするできるので、高線量の放射線を照射できるようになります。
このような理由で、粒子線治療の方が、従来の放射線治療よりも治療成績がよくなるのです。
ただし、病巣の周囲に問題となるような正常組織がなければ、粒子線治療でも、従来の放射線治療でも、治療成績は変わりません。
従来の放射線治療であっても、周囲の問題となるような正常組織のことを考慮せず、高線量の放射線を照射できるからです。
X線抵抗性のがんに対しては、陽子線や重粒子線の方が治療効果が高いという側面がある。
陽子陽子線治療、重粒子線治療の方が、通常の放射線治療より破壊力があるというわけではないのです。
ただ、X線抵抗性のがんでは、従来の放射線治療よりも、粒子線治療の方が、がんをより制御できるという側面はあります。
具体的には、以下のようながん種です。
・肉腫
・悪性黒色腫
陽子線と重粒子線の違いは?
一部の情報サイトを見ると、重粒子線治療の方が、陽子線治療よりも、効果があるという記載があります。
しかし、それは誇大な表現であり、実際は、ほぼ同じです。
粒子線治療の効果をより上げるための工夫とは?
先ほど、粒子線治療は、正常組織への被曝量を、かなり減らせると解説いたしました。
それであったとしても、病巣と正常組織が近接しすぎると、正常組織も、かなり被曝します。
できれば、5ミリ〜10ミリくらいのスペースは欲しいところです。
わずか「5ミリ〜10ミリ」が、治療成績に非常に大きな影響を与えることがあるのです。
そして、5〜10ミリのスペースを作るために、スペーサ(商品名:ネスキープ)というものを病巣の横に留置した後に、粒子線治療をすることがあります。
全身麻酔で、外科のドクターが、腹腔鏡、もしくは、お腹を切って、ネスキープを留置するのです。
例えば以下にお示ししたような腫瘍があったとします。
腫瘍と小腸が接しているので、粒子線治療であったとしても、小腸はかなり被曝してしまうために、十分な量の放射線を照射できません。
そこで、手術でスペーサーを留置すると、小腸と病巣の間に距離ができます。
その結果、病巣に、高い線量の放射線を照射できるようになるのです。
すい臓がんにおける粒子線治療を例に出しますと、胃や十二指腸(下降脚)との距離が近すぎることが問題になることがあり、そのようなケースも、スペーサーを入れると、より根治性の高い粒子線治療法ができるようになります。
スペーサーを留置する治療は、保険診療内でできて、スペーサーを留置できる病院は少しずつ増えてきています。
この治療が、もっと広がれば、良いと思います。
編集後記
2023年にスペーサーを入れる治療の安全性と有効性に関する報告が出ました。
スペーサー手術50例を行い、スペーサー手術に起因する合併症は9例に認め、大きな合併症として、留置したスペーサーへの感染が2例と原因不明の十二指腸出血1例と言う報告でした。
スペーサーへの感染した2例に関しては、手術をしないで制御することができました。
以上のことを踏まえて、スペーサー手術は比較的安全性は高く、さらに放射線治療の効果を高めることができるという結論となっていました。
この報告を踏まえても、今後、いろんな病院でできるようになってほしい治療法だと思います。