がんでCVポート手術を不安なく受けるための秘訣を医師が解説
こんにちは。札幌市でがん治療を専門に診療している医師の加藤隆佑です。
抗がん剤治療の投与の際に、CVポートは、重要な役目を果たします。
以下のような役目です。
・抗がん剤投与の際に生じる血管痛に、悩まされないようになる。
・CVポートから、採血することにより、楽に採血検査を受けることができる。
・栄養補給の点滴を、気軽に行うことができる。
一方で、CVポートの埋め込みの手術を受けないといけなくなり、不安に思われる方もいます。
・埋め込み手術が痛くて怖い。
・ポートを埋め込むと、見た目は大丈夫だろうか?
・温泉に入ったり、スポーツはできるだろうか?
本日は、ATLAS 手術,LOVE手術,FELLOW手術,ILIAD手術と,患者様の状態に合わせた,画期的なCVポートの留置法を開発された医師である岸 宗佑先生をお招きしました。
岸 宗佑先生は、きしクリニック札幌の院長でVADセンターも運営されているドクターで、CVポートの留置実績は、日本全国でも5本の指に入る腕の持ち主です。
CVポートの手術を受ける際に、知ってほしいことを教えていただきました。
私と、岸先生の対談の内容を、文章化して、最後に監修もしていただいています。
それでは、よろしくお願いいたします。
<岸医師>
<加藤医師>
はじめに、CVポートとは、何かを教えてください。
<岸医師>
絵にあるようなものを、皮膚の下に埋め込みます。
そして、点滴をするときには、埋め込んだところに、針をさすだけで、大丈夫になります。
ほんの少し、チクっとするだけです。
点滴が終われば、点滴を抜きます。
血管が細くて、点滴の時に、何回も針を刺されるということは無くなります。
抗がん剤の投与の際にも、体への負担を減らすことができます。
抗がん剤を、手足の細い血管の中に注入すると、血管痛というものが生じることがあります。
しかし、CVポートから抗がん剤を入れると、そのようなことは起きません。何故ならば、CVポートから注入された抗がん剤は、カテーテルの中を通り,太い血管まで運ばれ,全身へ拡散していきます。
<加藤医師>
解説ありがとうございます。
CVポートは、すごい便利ですよね。
ただ、CVポートを入れる時に、痛くないですか?と聞かれることがあります。
CVポート留置となると、多少なりとも、痛みはあるし、私が患者さんの立場であっても、少し怖いなと思います。
しかし、岸先生のCVポートを留置する姿を見て、考え方は、ガラッと変わりました。
<岸医師>
と言いますと?
<加藤医師>
岸先生のCVポート留置の手術の現場を、先日見学させてくださったときに、患者さんに、
「3分くらいで、終わりますよ。痛みも、初めの局所麻酔のところだけですよ」
と言われてましたよね。
私は、そのセリフを聞いて『本当に、そんな短い時間でできるの?』と、少し疑いました。
普通であれば、30−60分くらいはかかる治療ですし、局所麻酔でやると、もう少し痛い治療なのであろうと認識していたからです。
しかし、実際に、見せてもらうと、本当に3分くらいで安全に終わり、患者様からの訴えも、初めの局所麻酔以外は、ほとんど痛みもなかったですよね。
「安全に、痛みは少なく、患者さんに不安を与えず、CVポート留置をできるかどうか」は、医師の腕に多分によるということを、実感しました。
<岸医師>
恐縮ですが,そのように言って頂き、ありがとうございます。
患者様も.手術前は不安なご様子でしたが,処置後,安心され,短時間で終わることができ,感謝の言葉も頂き,医師としても嬉しい限りです。
一般的には、患者さんによって、CVポートの埋め込みは、本当に辛かったと言われる方もいれば、全く楽でしたと言われる方もいます。
ただ、しっかりとトレーニングを受けた医師からの治療であれば、苦痛になることは、ほぼないです。
私も、年間、500例くらいのCVポート埋設術,400件ほどのPICC留置など,血管内留置デバイスの処置をしておりますが、ほとんどの方からは、「予想以上に楽に治療を受けることができました。」とのご感想を頂くことが多いです。
<加藤医師>
すごいですね。
それでは、もう少しCVポートについて、教えてください。
CVポートを入れて、見た目はどうなのでしょうか?
参考までに、私が調べてみた限りですが、患者さんのCVポートに対する感想を、何個か列挙しますね。
「右鎖骨下に埋め込みました。触ると硬く出っ張っています。しかし、胸元が相当開いた服を着ない限り目立ちません。なによりも、点滴がスムーズで、精神的に楽でした。」
「痩せてくると、ポートそのものの盛り上がりと、ポートからでる管が、血管のように浮き出て、目立つようになります。見た目から、がんの治療を受けているとわかってしまうので、それがいやです。」
「既に、10年間も、ポートを埋め込んだままですが、違和感、痛みなどを日常感じる事はありません。」
「車の運転のときに、シートベルトがあたらないか?ショルダーバッグのベルトがあたらないだろうかとか、運動して大丈夫だろうかとか、心配しました。幸いにも、これまで、1度も不都合を感じたことはないようです。案ずるより産むが易しでした。」
岸先生:いろんな感想がありますね。
専門家として、もう少し詳しく解説します。
CVポートを、どこの部位に入れるかで、日常生活に与える影響は違います。
<鎖骨の下にいれるポート>
一般的に、最も多いのが、鎖骨の下にいれるケースです。
問題点が何個かあります。
・女性の方は、下着なども首元が広く開いたデザインの服が多く,頚部や前胸部に創部が生じることに抵抗がある患者様もいます。。
・やせている方ですと、何かが皮膚の下に入っていることがわかってしまうことがあります。
・他人に気がつかれること,外観から見えやすいことに抵抗がある患者様もいます。
・膵臓がんや胆管がんの方は、うつぶせになって行う内視鏡治療(ERCP)をすることが多く、そのような場合は、内視鏡処置中に,前胸部に入ったCVポートを使うことができません。
うつ伏せになっているので、CVポートに点滴の針をさすことができないからです。その場合は、手足の点滴の針を,新たに刺して、内視鏡中は,別に点滴をする必要がでてきます。
その場合は、点滴の針を腕からさして、点滴をする必要がでてきます。
<大腿部にいれるポート:FELLOW surgery>
ちなみに、大腿部に、ポートをいれるケースもあります。
<上腕にいれるポート:LOVE surgery>
最近,女性の患者様,乳がんの患者様から,好評を頂いているのは、二の腕(上腕)の外側にいれるCVポート手術法(LOVE surgery)です。
カテーテルも,腕の背側をトンネリングするので,この場合ですと、目立ちません。
LOVE 手術とは、処置の英語名の頭文字をとって,命名したものです.
Lateral Outside brachial implantation Via (effective) Edematous subcutaneous dorsal tunneling with saline injection surgery
もし、私が、がんの治療を受けることになった場合には,間違いなく、この方法で、上腕の外側にCVポートを留置してもらいたいと思う処置方法です。
こちらが、実際の治療の写真です。
<加藤医師>
ありがとうございます。
上腕にいれるCVポートに、問題点はないのですか?
<岸医師>
そうですね。何点か、問題点はあります。
ほとんど経験しませんが、上腕の細い血管に細いカテーテルを留置するため、手がむくみやすくなる方がいます.
また、上腕にCVポートを埋設された患者様も増えてきておりますが、あらゆる病院で,すべての医療従事者が、管理に習熟できていないこともあり、その患者様が治療されるであろう環境が重要と考えています。
埋設部位が、胸か腕かだけであり、管理の仕方は、鎖骨の下に作ったCVポートと同じなので、心配はいりません。
上腕を希望されておりましたが、子育て中の患者様で、小さなお子さんが腕にぶら下がるので,その後の生活を相談する中で,前胸部希望に変更された方も経験しております。
CVポート = 前胸部、という固定概念ではなく、「患者様の生活・人生」を考え,ご希望を第一にしております。
そのために、新しく考案した手術方法も4つの方法があり、こうした処置方法を用いることで、あらゆる条件の患者様にも対応できております。
ちなみに、上腕にいれるCVポートにも、埋設部位として,内側・外側の2つの手術方法があります。
1つは、上腕の内側にいれるという方法です。その場合ですと、腕から血圧が計れなくなることが多いです。
さらに,内側にあるポートが、体にあたって、違和感を感じられることもあります。
したがって、私は、患者様の生活を考え、血圧測定にも問題ない部位で,上腕の外側にCVポートを埋設する方法を考案し、LOVE 手術と命名しました。
希望される患者様には,日々,処置しています。
この方法は,画期的な方法ですが,自由診療ではなく,手術方法の工夫だけであるため,通常の保険診療の範囲内です。費用についても通常診療ですので,御安心ください.
腕の外側には、重要な神経もなく、体の構造としても理にかなっている方法ですが、これまでの方法と比べて処置がやや難しく感じられることもあります。
この方法を習熟したいという医師も多く、講演活動だけでなく,毎月、沖縄の大浜第一病院でも勤務に行くなど、全国での若手指導も行っております。
<加藤医師>
すごいですね!
<岸医師>
最後に、もう一つ。
CVポートにもいろんな種類があります。
私もこれまで、あらゆるメーカーの様々な型式のCVポートを埋設してきた経験がありますが、現在,最も使用しているのは、パワーポート® という名称のCVポートです。
私が、一番お勧めしているのは、パワーポートという名称のポートです。
CVポートから、点滴は当然として、採血も可能であり、造影剤を急速注入しながらCTをとるということもできる製品です。
この3つがすべてできるパワーポート®(グローションタイプのパワーポート® 、オープンタイプのパワーポートクリアビュー®、上腕に埋設するパワーポートスリム®)を使用しておりますが、患者様からも好評を頂いております。加藤先生も使ってみてくださいね。
<加藤医師>
CVポートにもいろんな種類があるのですね。
最後に、岸先生は、医師向けに、上手にポートをいれることができるようにするための本を出版されています。
余談ですが、胸の前に入れるCVポートでも、鎖骨下静脈を穿刺するのではなく、内頚静脈という首の下側の血管を刺して、鎖骨の上を通して、前胸部に埋設する方法があります。
そして、岸先生は、患者の体への負担を非常に少なくして、3分ほどで埋設できる ATLAS法を開発され、手術書として出版されていますね。
300ページ、フルカラーのCVポートの専門書で、手術する医師の目線からの写真が多く、管理やトラブルシューティング等、手術以外の情報もあり、こうした医学書は初めてみました.
最後に、何かメッセージがあれば、お願いします。
<岸医師>
加藤先生、私の本のことまで御紹介してくださり,ありがとうございます。
これまでCVポートの専門書籍はなかったので、執筆依頼を頂きました。
管理する看護師からも、どうやって手術しているのか、どういったものが埋設されているか勉強したいという方も多く、若手医師だけでなく、がん医療に関わる全ての職種向けに執筆した次第です。
Amazon では電子版も出版されており、読み放題契約をしている方や、Amazon prime 会員の方では無料で読めるため、最近では患者様が術前に読まれてから来院されるケースもありました。
どんなことされるか、イメージして臨めたので不安がなかったとのお言葉も頂いたことがありました。
これまでは、患者さんは、CVポートを前胸部に埋め込みましょうと医師から言われ、言われたまま手術を受けており、選択の自由がありません.
患者さんの生活状況やご希望に合わせて、埋設場所や手術方法を選べる時代になるように、情報発信や医師の育成に取り組んでいきたいです。
<加藤医師>
素敵な思いですね。
この話を聞いて、岸先生によるCVポートを希望されたら、きしクリニック札幌を受診してくださいね。