こんにちは。外園正光です。
札幌近郊の総合病院で、がん治療を専門に勤務しています。
本日は、顎骨壊死(がっこつえし)について解説いたします。
がんの治療中に、アゴが腫れて痛みが出てきたり、歯茎に灰色の硬いものが出てくるといった症状が出ることが、あります。
このような症状が出た時には、顎骨壊死を疑い、早急な治療が必要になります。
顎骨壊死とは?
顎骨壊死とは、あごの骨の組織や細胞が死んでしまい、骨が腐った状態になることです。
腐ったところに、細菌感染が起こり、アゴの痛み、腫れ、ウミが出るという症状が起こります。
初期の場合は、無症状のこともあります。
顎骨壊死が起こる原因は?
骨粗鬆症の治療薬であると同時に、骨転移の治療薬である、ビスホスホネート系の薬剤が、原因として最も有名です。
頭頸部がんに対して、放射線治療を受けた方も、顎骨壊死になることがあります。
ただし、ビスホスネート系の薬剤や、放射線治療を受けただけで、顎骨壊死になるわけではありません。
このような治療歴がある方において、虫歯や歯周病が進行して、顎の骨に炎症が波及したり、抜歯などの外科処置を受けたことが、顎骨壊死の発症の危険因子になります。
ちなみに、頭頸部がんに対して放射線治療を受けると、唾液の分泌量が減り、口腔内が乾燥し、歯周病が悪化しやすくなるから注意が必要です。
ビスホスネート系の薬剤を飲んでいると、どのくらいの頻度で顎骨壊死が起こる?
飲み薬のビスホスホネート系薬剤(ボナロン、ボンビバ、アクトネル、ベネットなど)では、1万人に1から2人です。つまり、頻度の高いものではありません。
しかし、注射薬(ゾメタ、プラリア、ランマーク)では100人に1 人程度とされており、頻度が跳ね上がります。
さらに、抜歯を受けた場合は、発症確率が、6%から9%まで、跳ね上がります。
いったん発症してしまうと、治りにくいために、予防が大事になります。
予防で最も大事なのは、口腔ケアです。
そのためにも、がん治療が始まる前に、歯科を受診し、口腔内を綺麗にしてもらってほしいです。
さらに、1年に2回程度の歯科受診を受けて、クリーニングをしてもらいましょう。
顎骨壊死が発症した時の対処法とは?
1、頻回に、口の中を洗浄
その過程において、壊死した骨が、自然に排出されることがあります。そして、正常な粘膜で覆われれば、手術による治療は不要です。
自然に排出されない場合は、手術で、腐った骨を取り除きます。
顎の骨を大きく切除する必要がある場合は、入院して全身麻酔での手術になることもあります。
2、膿が出ている場合には、抗生物質を投与
以上のような治療戦略になるわけですが、治癒することは難しいことも多いです。
何故ならば、顎骨壊死は、口腔内に症状が出ているよりも広い範囲に、病巣が及んでいるからです。
これを全て治癒させようとすると、非常に広い範囲の顎の骨を切除しないといけません。そうすると、生活の質を大きく落とします。
したがって、治癒ではなく、可能な限り腐った骨を取り除きつつ、膿が出ない状況に持っていくことを、目標にせざる得ないこともあるのです。
3、高圧酸素療法も、有効であるというデータもあります。
例えば、岩手医大の高橋 一彰先生は、以下のような報告をされています。
デノスマブに起因すると考えられた顎骨壊死の症例に対し,高気圧酸素療法(hyperbaric oxygen therapy;以下 HBO)を併用した腐骨除去術を施行し,良好な結果を得たので報告する.
患者は 60 歳の男 性で,左側下顎の骨露出の精査を目的に当科を受診した.既往歴に前立腺がんがあり,多発骨転移による 骨関連事象に対して2年8か月間デノスマブを 120 mg /月で皮下注射していた.
口腔内所見では,左側下 顎の歯槽部の舌側に骨露出が認められ,発赤を伴う周囲歯肉から排膿が認められた.局所洗浄による保存 的治療を開始したが,骨露出部は徐々に拡大した.
やがて,分離した腐骨に動揺が認められたため,局所 麻酔下に腐骨除去術を施行したが,その後も骨露出は進行した.さらに,左側頬部蜂窩織炎を併発したため, HBO を開始した.
HBO を 10 回行ったところで左側頬部の腫脹は改善し,開口量も 25 から 30 mm に増加 した.
パノラマX線写真にて左側下顎に腐骨分離が確認されたため,HBO を8回追加した後に全身麻酔下 で腐骨除去術を施行したところ手術創は約2か月で上皮化した.術後2年6か月が経過した現在,炎症の 再燃は認められない.
引用元:高気圧酸素療法と腐骨除去術が著効した薬剤関連顎骨壊死の 1 例
まとめ
顎骨壊死は、治癒が難しいことが珍しくありません。
したがって、予防を心がける必要があり、そのためにも、口腔ケアをしっかり行いましょう。