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がん治療をうけても妊娠できるようにするための卵子凍結保存について医師が解説

 2022/09/16 不妊治療  

こんにちは。加藤隆佑と申します。札幌の総合病院でがん治療を専門にしている医師です。

本日の本題に入らせてもらえればと思います。

がんの治療が生殖機能に影響し、妊娠するための力、つまり妊孕性が失われることがあります。

万が一、そのような状況になっても、妊娠をできるようにするための手段があります。

卵子を採取して凍結保存するという方法です。

将来、卵子を融解し受精させ発育した胚を子宮内に戻せば、妊娠できる可能性があるからです。

ちなみに、パートナーが既におられる場合は、卵子ではなく、卵子と精子が合体した受精卵という形での凍結保存、つまり胚凍結保存が推奨されます。というのは、胚の方が凍結融解後の生存率が、卵子凍結よりはるかに良好だからです。

本日は、多数の不妊治療の実績がいらっしゃる福田愛作先生に、がん患者さんにおける妊孕性温存の記事を監修していただきました。

福田愛作先生のクリニックでは、がん生殖に大変力を入れられており、毎年「大阪東部地域がん生殖医療連携会議」を主催されています。

将来の妊娠のために、どのような形で卵子や受精卵を保存をしたら良い?

保存の方法は、凍結保存となります。

卵子を保存する場合は、卵子凍結保存となり、受精卵を保存する場合は、胚受精卵凍結保存となります。

パートナーがいる場合は、胚受精卵凍結保存の方を、推奨されます。

卵子を凍結してしまって大丈夫ですか?というご質問を受けることがあります。

採取したばかりの卵子と、凍結保存した卵子の受精率は変わらないし、妊娠継続率も同じです。

ただ、凍結保存をしたとしても、必ずしも、保存したものを用いて妊娠できるわけではありません。

凍結保存卵子の融解後の生存率は不安定で、胚凍結のように90%以上生存するとは限らないからです。融解後に卵子が生存していれば、ということになります。

卵子や精子を凍結保存しておくメリットは、がん治療によって卵巣や精巣がダメージを受け妊娠する力を失っても、将来がんサバイバーとして妊娠できるチャンスを残すことができるのですが、知っておかないといけないデメリットもあります。

凍結保存のデメリットとは?

1、コスト

精子の場合は簡単に採れますが、卵子の場合は、採卵準備、採卵費用、そして採取した卵子や受精卵の凍結保存操作、さらには保管料がかかります。

病院によって保管料は異なりますが、例えば、以下のような値段設定の病院もあります。

卵子1個で年間1万円、10個くらい保管したら年間10万円

2、採取できる卵子の数は予想できない

一人の女性が子供を妊娠するにあたって必要な卵子は、35歳で5個、40歳で10個、45歳で15個と言われています。

しかし、理想とする数を採取できないこともあります。1個も取れないこともあり得ます。

3、採取した卵子が、全て受精するわけではない。

たくさん卵子を採取できたとしても、受精がうまくいくかどうかはわかりません。

卵子の場合は融解後の生存率は30%から90%と安定せず、全く生存しないこともあります。

受精卵では平均して90%以上生存します。

例えば、12個あっても妊娠できないケースがあれば、1個で受精がうまくいき、妊娠できることもあり得ます。

4、安全に保管した卵子を安全に用いることができるのは、45歳くらいまで

体外受精が成功しても、高齢になる程、安全に妊娠・出産するのが難しくなります。

そういう意味合いでも、がん治療が終わればできるだけ早く、凍結卵子や受精卵を使われることをお薦めします。

5、治療開始のタイミングが遅くなる。

卵子の採取のためにはいろいろな準備がありますから、がん治療の開始のタイミングが遅くなる可能性があります。

その理由を知っていただくために、卵子の採取の手順を解説します。

手順1、検査で、卵子を取っても問題がないかどうかを判断します。

手順2、採卵の手術日程を決めます。

手順3、手術日程に合わせて排卵誘発剤(注射)を投与します。

たくさんの卵子を育てるために、排卵誘発剤剤を投与し、「卵子の入った卵胞を出来るだけ多く」を育てます。

その際に、卵胞の多い方ではお腹の張りや不快感という副作用が出ることがあります。若い方では、この症状を経験することがあります。

これを、卵巣過剰刺激症候群と言い、卵胞が多く育つ(通常15個以上)ことで卵巣が腫れ、時に腹水が溜まることもあります。

逆に、既にがん治療が何クールか始まっている方では、排卵誘発剤を打っても卵胞が育たない場合もあります。卵胞の数が少ない場合には、卵巣過剰刺激の症状はでません。

おおよそを言いますと、7日間くらい卵子の成長を促す注射を打ち、そして採卵します。

注射から採卵までは10〜14日間程度であることが多いです。

手順4、成熟しそうな卵子ができたと判断したら、医師は、成熟を促す注射を投与

投与して、36時間後ぐらいに採卵を行います。

手順5、採卵のための手術

実際に採卵にかかる時間は15分ぐらいですが、準備を含めると1時間くらいの手術になります。膣から細い針を刺し、卵巣へ針を進めます。そして、一つ一つの卵胞から卵子を吸い出します。麻酔をして行いますので痛みはありません。

手順6、液体窒素で、凍結保存

吸引した卵胞液から卵子を取り出し凍結保存します。

受精卵の場合は、授精操作を行い、受精したものを培養し、分割胚や胚盤胞(患者さんにより違うことがあります)になったものを胚凍結します。

ここまでが手順となります。

このようなステップを踏むために、がん治療開始が1ヶ月くらい遅くなってしまうこともあるのです。

医療機関によっては、手術日程が、数ヶ月先になってしまうこともあり、がんの治療開始がさらに遅くなってしまう可能性もあります。

がん治療が終わり、妊娠を試みる段階になったら?

凍結した卵子を用いる場合の手順は、以下の通りです。

1、ホルモン剤の投与で、子宮内膜を準備します。

ただし、自然排卵が可能な方は、ホルモン剤を投与しないで、自然周期で可能です。

2、顕微授精もしくは体外受精法を行う。

凍結した卵子を融解し無事に生存すれば、顕微鏡を見ながら、精子を直接卵子に注入する顕微授精や、精子の状態がよければ、自然のように卵子に精子を振りかけて行う通常の体外受精法(媒精法)を、用いることもあります。

そして、受精卵を3日(分割胚)から5日(胚盤胞)ほど培養し子宮に移します。これを、胚移植と言います。

受精卵で凍結した場合は、胚移植の日に融解します。

ちなみに、人工授精と体外受精の違いは何ですかというご質問を受けることがあります。

人工授精と体外受精は、まったく別のものです。

人工授精は、精液から元気な精子を選別し子宮内へ注入する治療で、70年前から行われており、体外受精とは全く違ったものです。

体外受精は、精子と卵子を取り出し、体外すなわち試験管の中で受精させ、受精卵を子宮の中に戻す方法です。

体外受精は、精子や卵子を体外に取り出し、受精させた後に体内に戻すことです。

保険診療でうけられますか?

2022年4月から不妊治療が保険適用になりましたが、残念ながら、がんの治療前に凍結した卵子などを使って不妊治療を行う場合は、保険の適用外となっています。

したがって、厚生労働省は、がん患者さんが不妊治療を行う際の新たな助成制度を検討している最中です。

編集後記

最後に、zoomで私と福田先生で対談をしております。その内容も、ご紹介します。

加藤医師:監修していただき、ありがとうございました。

実際に、福田先生のもとで卵子保存をした方で、お子様が誕生された方もいらっしゃいますか?

福田医師:はい。長く妊孕性温存治療を実施しており、凍結胚はもちろん、凍結卵子からも、お子様は誕生しています。

加藤医師:そうなのですね。妊娠できる可能性を残しつつ、がん治療を受けられるようにするという選択肢は、大事だと思います。そのためにも、少しでも経済的な負担を少なくして、受けられるようになると良いですね。

ちなみに、卵子を取り出すことは、保険診療で、受けられるのでしょうか?

福田医師:保険適用ではありませんが、国が助成金を出していますので、それを利用されれば、かなり楽になると思います。精子凍結についても助成金が出ています。

そして、当院では、採卵までのお金はいただいておりますが、がん患者様に限って、精子・卵子、受精卵の凍結費用と、凍結更新費用を、がん治療が終了して最初の胚移植が行われるまで無料とさせていただいております。

加藤医師:素敵なシステムですね。

採卵のために、がん治療のスタートが遅れてしまうという問題点に対して、何か対策はないのでしょうか?

福田医師当院では、緊急に採卵が必要な方のために、たとえ来院翌日などに、小さな卵胞から採卵をする、未熟卵採卵も行なっています。

それを利用すれば、がん治療のスタートが遅れることはありません。

これは、当院が日本で初めて卵巣刺激をしない未熟卵体外受精(IVM)による妊娠出産に成功し、以来20年以上にわたり未熟卵体外受精を行っている経験に基づいています。

加藤医師:日本で初めてというのは、すごいですね。具体的に、どのような治療法ですか?

福田医師:特殊な治療法なのですが、すぐに採卵、つまり、排卵誘発注射を投与することなく卵子を取り出す治療であるIVMというのを行っているのです。

排卵誘発剤で成長する前の卵胞から、未熟な卵子を早めに採卵し、体外で卵子を成熟させた上で、凍結保存します。

IVMの場合は、「排卵誘発剤を投与し卵胞を育てる」という、採卵前の卵巣刺激のステップをすべてスキップできることになります。

かなり時間短縮ができて、受診していただいた翌日にでも、緊急で採卵もできます。

加藤医師:すごいですね。がん治療との両立ができるし、体への負担も少なそうですね。

福田医師:ただ、良い点だらけというわけではありません。

採卵には、テクニックが必要となります。当院のように、この治療をたくさん行っていても、一般的な方法よりも、成功率は若干低くなってしまいます。

とはいえ、IVMでなければ採卵のチャンスがない、という方にとっては、低くても可能性が残るという点で、現実面以外に、精神的に支えになるのではないかと考えています。 

加藤医師がん治療を遅らすことができない状況に置かれている患者さんには、有効な選択肢ですし、このような特殊な治療を受けるのであれば、福田先生の病院のような、豊富な経験を持つところで、受けた方が良いですね。

福田医師:はい、経験豊かな病院で受けた方が良いと思います。

加藤医師:もし、がん治療前の卵子の保存を考えている方は、福田先生に相談してみてくださいね。

福田先生のクリニックの詳細はこちらです。

IVF大阪クリニック

福田愛作先生のブログはこちらです。

こちらこら、不妊治療に関するお問い合わせもできます。

 

監修医師:福田愛作

IVF大阪クリニック 院長


京都大学医学博士

略歴


1978 年 3 月 関西医科大学卒業,京都大学医学部婦人科学産科学教室入局
1980 年 9 月 市立舞鶴市民病院産婦人科医長
1984 年 4 月 京都大学大学院医学研究科博士課程
1989 年 6 月 京都南逓信病院産婦人科医長
1990 年 7 月 米国東テネシー州立大学医学部産婦人科留学
1998 年 7 月 IVF大阪クリニック勤務
2003 年 4 月 IVF大阪クリニック院長


その他プロフィール


日本生殖医学会生殖医療専門医
日本レーザーリプロダクション学会理事長
日本IVF学会常務理事
日本受精着床学会理事
JISART 監事
1992年米国不妊学会賞(ASRM)
1993年関西医科大学同窓会賞
1998年SIGMA科学写真賞,
2000年日本受精着床学会世界体外受精会議記念賞
2009年世界レーザー医学会Good Speaker Award


ブログも運営されています。

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